橋本さん:自分の知識や技術が積み上がってきたことを実感すると、その強みを実際以上に感じ、なかなかやめられなくなる──ギャンブルやソーシャルゲームをしていると、そうした心理によく陥ります。
自分が所有しているものに価値を感じて手放したくなくなる心理を「保有効果」といいますが、これに関しては、別掲図のような実験結果があります。いったん手に入れたマグカップに愛着が湧くと、それに対する評価も自然と高くなるんです。こうした心理は、ものに限らず、自分が保有している技術などにも見られます。
オバ記者:ギャンブルやゲームって、終わった後に感じる「これだけで一日が終わっちゃったよ……」という徒労感がキツイんだよね。やっている最中は熱くなって夢中で、「ここでやめると後悔する。だから、悔いのないようにトコトンやる!」って意気込むけど、単に冷静さを欠いていただけなのよね。
橋本さん:自己嫌悪に陥りますよね。ギャンブルやゲームをせず、その時間を別の選択肢に充てていたら、こんなことができた、あんなことも実現した、とつい思ってしまいますよね。
オバ記者:そんなの毎日思ってるわよ。私の場合、何もこんなにYouTubeを見続けなくてもよかったのに……って日々反省している。「この時間を原稿書きに充てていたら、もう完成していたに違いない」って思いながら、気づけば5時間も6時間もYouTubeを見てるのよ。
橋本さん:(笑い)。まぁ、人はなかなか合理的には動けませんから。人間の考えや行動って、なんだかんだ言って不合理なんですよ。それを理解しておけば転ばぬ先の杖になる。人は誰しも弱いところがあるものだ、と理解した上で、「間違ってもいい。でも、無理をしすぎない」という気持ちを持つ。それが大切だと思います。
オバ記者:そうね。無理しすぎないことよね。貯金にしても、「自分ができる範囲で」って思えば、気持ちがずいぶんラクになるわ。
(第4回につづく)
【プロフィール】
橋本之克さん/マーケティング&ブランディングディレクター。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。近著に『9割の買い物は不要である』(秀和システム)。
「オバ記者」こと野原広子さん/空中ブランコや富士登山など体当たり取材でおなじみのライター。女性セブン連載『いつも心にさざ波を!』も好評。64才。
取材・文/藤岡加奈子
※女性セブン2022年3月24日号