3月10日、欧州最大規模の店舗である「ユニクロ モスクワ」には大勢の客が押し寄せていた。帰国直前に店を訪れていた日本企業のロシア駐在員男性が様子を語る。
「営業停止が発表されて以降、連日店前に行列ができていました。店内ではヒートテックの下着を買いだめする女性客など、慌てて購入する姿が目立ちました」
男性は出国に際し、必要な衣類を購入するために立ち寄ったという。昨年12月にオープンしたばかりの同店に最初で最後の来店となった――。
ユニクロを展開するファーストリテイリングは3月10日、営業を継続する方針から一転、ロシア国内の50店舗やオンラインストアでの販売を一時停止すると発表した。
同社に休業による現地スタッフへの対応について聞くと「従業員の生活に不安がないよう、会社として最大限の配慮をしてまいります」(広報部)とだけ回答した。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、現地に社員を駐在させ、事業を展開する日本企業は有事対応を余儀なくされている。
「出向者全員を退避させる予定です。6人の出向者のうち2人はすでに帰国しており、4人については11日時点で近日中に帰国予定になっています。帯同の家族はいません。外務省がレベル3の『渡航中止勧告』に引き上げる前から社員全員の安全確保のため、一時帰国を調整していました」
そう語るのは、モスクワに販売拠点、極東ウラジオストクに工場がある自動車メーカー・マツダの広報部だ。トヨタ自動車も「順次、一時的に帰国としている」(広報部)という。
社員の安全を守るため、一刻も早い国外退避を実現するべく、現地の日本企業は対応を急いでいる。
帝国データバンクの調査によれば、ロシア・ウクライナ地域に進出する日本企業は370社を超える。特に、ロシア進出企業は2013年比1.6倍の347社となり、石油・天然ガスなど資源開発に関わる総合商社4社のほか、工場や販売拠点を設ける自動車メーカーや機械メーカー、進出企業の決済事業を支える銀行など大手企業が多い。
マツダは全社員を一時帰国させる方針だが、その他の企業はどのような対応を取っているのか。