オバ記者:なるほどね。その人なりに筋が通っていて、合理的だと思っているわけね。正しいかどうかより合理的。周りにどう思われようとも、支払う必要がない、自分にとってムダだと思う支出は何があっても避けるわけね。
橋本さん:自分なりの理由があると、いかがなものかという行動でもやってしまいがちです。保育所に子供を預けて働いているお母さんに関して、別掲図のような実例があります。16時がお迎えの時間で、それを過ぎると保育士さんは残業しなければならない。保育士さんに迷惑をかけてしまうことがわかっているから、遅れてしまった母親は申し訳なさそうに「迷惑をかけてすみません」と言いながら駆け込んでくる。
ところがある日から、保育所側が「30分遅れたら500円のお支払いをお願いします」と制度を変更した。すると、どうなったか。支払い額を増やさないため、時間通りに迎えにくる親が増える、と保育所側は期待していたのに、実際は逆でした。遅れてくる人数は倍になり、申し訳なさそうな態度も示さなくなった。遅刻の代償としてお金を支払うんだから遠慮や気遣いは必要ない、というわけです。
オバ記者:それまで殊勝な態度を見せていた人たちが?
橋本さん:そうです。そういう取り決めでしょ、と堂々と。保育士さんが残業になってしまうといった迷惑については一切考えなくなってしまったんです。そうした例に見られるように、いろいろな場面で“お金は人の心を狂わせる”んです。
ボランティアにも同じような現象が起こりました。無償で働いていた人に報酬を渡すようになった途端、「もらって当然」となってしまい、無償のときより仕事が雑になったりして、頑張らなくなってしまったんです。お金を払うことがモチベーションを上げるとは限らない。これは「アンダーマイニング効果」と呼ばれますが、報酬を渡すことにより、役に立とう、達成しようという前向きで自発的な気持ちが阻害されてしまうのです。
オバ記者:ボランティアって、自分は社会貢献をしているって思った時点で、それが“報酬”になっているはずなんだよね。でも、そこにお金が絡むと“正しい私”がいなくなっちゃうのね。
橋本さん:そう、お金は怖い。
オバ記者:人の気持ちを変えちゃうんですね。