もっとも、懲戒であっても殴ったり、蹴ったりすれば、刑法上の暴行です。相手が我が子でも、許されることではありません。犯罪になれば、警察の出番です。
『刑事訴訟法』では、何人でも犯罪があると思料するときは、告発できると定めていますから、子供の虐待も警察に犯罪として告発できます。また、正式な告発ではなくても、警察に犯罪を通報することは、通常なされること。しかし、いずれも義務があるわけではありません。間違った告発や通報で、犯人扱いされた人の名誉が毀損される可能性があります。その場合、犯罪を疑ったことに、相当な理由がないと不法行為になり、慰謝料の請求を受ける虞もあります。
他人の家庭には、うかがい知れないことが少なくありません。はっきり虐待と認識できる場合は別ですが、児童の保護だけでなく、自分の身の安全を考えると、慎重を期して、まずは児童相談所等へ通告するべきでしょう。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2022年5月20日号