もともとは夏と冬しかなかった?
ところが、アルプス以北に住む古代ゲルマン人の世界では、夏と冬しかなかった。春と秋については、復活祭(イースター)と収穫祭はあったものの、1年を4等分にするものではなく、季節感は「暖かい時期」と「寒い時期」のみに分けられた。実際、季節を表す言語を見ても、夏(Summer)と冬(Winter)は英語やドイツ語(Sommer/Winter)、オランダ語(Zomer/Winter)、デンマーク語(Sommer/Vinter)などを含むゲルマン語に共通する部分がある。これに対して、春(Spring)と秋(Autumn、Fall)は、ドイツ語でFrühling /Herbst、オランダ語でLente、Voorjaar/Herfst、デンマーク語でForår/Efterårなど言語により様々。この事からも、春と秋は後から加えられた季節と考えることができるのではないだろうか。
温暖化による気候変動によって、春夏秋冬の季節感から古代ゲルマン人のように季節は二分し、春は桜の開花日、秋は紅葉の季節という2つのイベントに限られていくのかもしれない。実際に私たちが春と秋でイメージするのは、カレンダーの絵柄に端的に現れているこの2つだ。
では、1年を二分するとなると「寒い時期」と「暖かい時期」をいつ頃で区分すれば良いだろうか。日本の気候にとってポイントとなるのは湿度だ。東京の平年値を例にすると、湿度は1月から3月までは50%台だが、4月から60%台に上がり、7月にピークの76%となり、12月になってようやく50%台へと戻る。
湿度は私たちの生活に直結している。昔から、空気が乾燥すれば火災への注意、湿気が多くなればカビ対策と言われる。寒い時期は肌の乾燥、暑い時期に湿気が多くなるとヘアスタイルが心配になるもので、女性であればポーチに入れる化粧品の中身も大きく変わるに違いない。
このように湿度を基準に置くと、日本の気候は4月から11月と12月から3月に分けて考えることができる。4月は入学や就職といったスタートの季節だが、それは湿度を尺度おいて1年を2つに分ける意味でも、ポイントになる時期なのだ。
気温の上昇とともに湿度も上がり、天気は移り変わっていく。季節の変化の先に何があるか、不安が芽生えることもあるかもしれないが、新緑の季節は既に来ている。
【プロフィール】
田家康(たんげ・やすし)/気象予報士。日本気象予報士会東京支部長。著書に2021年2月に上梓した『気候で読み解く人物列伝 日本史編』(日本経済新聞出版)、そのほか『気候文明史』(日本経済新聞出版)、『気候で読む日本史』(日経ビジネス人文庫)などがある。