内閣府がまとめた『高齢社会白書』によると、2020年10月1日時点の日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は28.8%だった。すでに超高齢社会だが、この傾向は今後も続き、2036年には高齢化率33.3%、3人に1人が65歳以上の“超・超高齢社会”を迎えると推計されている。その時、日本の社会はどんな姿を見せるのか。高齢者で賑わうスポーツクラブ(フィットネスクラブ)にヒントがあると感じたフリーライターの吉田みく氏が、そこで働く20代の女性2人に話を聞いた。
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筆者の通うフィットネスクラブの場合、平日昼間に行われるヨガや体操などのレッスンは60代以上の利用者が目立つ。ラウンジではシニア世代の利用者たちが会話を楽しみながらランチをし、次のレッスンを待つ風景をよく目にする。時にはシニア会員同士のトラブルを仲裁するスタッフの姿も目にするが、コロナ対策のための利用制限が緩和された今、フィットネスクラブは高齢者の憩いの場となっているようだ。
フィットネスクラブのフロントで働く都内在住のメグさん(仮名、29歳)は、そんな高齢の利用者たちに頭を悩ませていた。
「フロント業務を行っていると、ご高齢の会員さんに対する苦情が多く寄せられます。『ずっと独り言を言っているから注意してほしい』、『体が濡れたままの状態で脱衣所を歩き回る人がいた』など、毎日のようにクレームが入ります。該当者を注意すると、『私をバカにしているのか!』と怒鳴る人もおり困っています……。大浴場で何度も失禁を繰り返す高齢者がいたこともありました」(メグさん)
利用者からの意見を聞くのもスタッフ業務の一つであることは理解しているものの、一部の高齢会員に対応する業務の量が多すぎて、清掃や入会案内などに手が回らないほどだという。店長にその旨を伝えても具体的な改善策は示されず、メグさんだけが疲弊する状態が続いているそうだ。メグさんが嘆息する。
「私が働くフィットネスクラブは利用者の半数以上が60歳以上の会員さんで、彼らに売り上げを支えてもらっているといっても過言ではありません。しかし、これでは老人ホーム状態です。私は介護のプロではないので、声掛けや対応は未熟で、うまく立ち回ることができません……。万が一のことがあっても責任は負えないです」
先日、メグさんが恐れていたことが発生。70代の女性会員が大浴場でのぼせてしまい、転倒してしまったのだ。幸い大きなケガはなかったそうだが、緊急連絡先にあった女性の息子に連絡したところ、思いもよらない言葉が返ってきたという。
「『母はフィットネスクラブを生きがいにしています。いつもありがとうございます』と、感謝の言葉を伝えられました。対応に困るときもありますが、必要とされている場で働けることは幸せなのかもしれません」
今回の件をきっかけに、メグさんはホームヘルパーの資格に挑戦することを決めたそうだ。「今までいろいろと大変だったが、視野が広がってよかったです」と、喜んでいた。