通学定期値下げで「若い世代の入居促進を図る」
それにしても気になるのが、この値下げが昨年11月19日に発表されたこと。コロナ禍ではあったが、ロシアのウクライナ侵攻前であり、原油などのエネルギーや食料品などが高騰する前の話である。鉄道経営においては、利用者の減少はもちろん、エネルギー価格高騰による電気料金の値上げも収益にとってマイナス材料であるはずだ。環境が変わったことで、値下げの“勝算”に狂いは生じていないのか。
北総鉄道企画室に聞いたところ、「運賃値下げは予定通り行なう方針」として、次のように説明する。
「今後の事業環境の見通しとして、沿線の一部において人口減少が顕在化していることに加え、新型コロナウイルス感染拡大による新しい生活様式が浸透し、今後の都心への通勤需要等も先行き不透明な状況であることから、こうした状況を総合的にかつ慎重に検討を重ねた上で、利用者の声や沿線自治体との活性化施策との整合性などを勘案し、利用しやすい輸送サービスの提供を行っていくとともに、当社としての事業基盤の維持・向上を図るために今回の運賃値下げを行うこととしたものです」
そして、今後の“勝算”について、こう語る。
「新型コロナウイルスによる影響が一定程度残ることが予見されるものの、今回の運賃値下げは、若い世代の入居促進を図るため、家計に直結する通学定期を大幅に実施するとともに、中距離帯の値下げ幅を大きくすることで、北総線内の移動を促進し、沿線全体の活性化に資するような運賃体系とするものです。これらはいずれも会社の経営の持続性や安定性を確保できる範囲での値下げを行うものであり、当社といたしましては、今まで以上に自治体など地域の皆様との連携を強化し、沿線のさらなる発展を図るとともに、選ばれる沿線となるために一層努力していく所存です」
値上げラッシュの波に逆行するかのように運賃値下げに踏み切っているのは、北総鉄道だけではない。たとえば小田急電鉄では、今年3月からICカードを利用すれば小児運賃を全線どこまで乗っても「一律50円」を実施している。はたして運賃値下げによって想定される減収分をどうカバーしていくのか。鉄道各社の戦略に注目していきたい。