インターネットが世界を席巻することを自分は体験的に知っていたから、「It’s a Sony」を捨て、「Digital Dream Kids」を掲げ、ソニーをインターネット企業へ、コンテンツ企業へと大きく舵を切りました。
社長になる前に、社内のシンクタンクで「これからメディアは対話の時代になる」というレポートを書きました。それまでのメディアはテレビとか新聞、映画とか、一方的に情報を伝えていたのが、インターネットによって双方向で対話する時代になると。
出井は10年早過ぎるとか色々言われたけども、私は確信していました。インターネットの時代の企業経営は、“有形資産から無形資産への大転換”が本質になるということを。
ここが分からないと、昨今起きている“ハンコをやめてデジタルにする”っていう、プロセスの話に終始しちゃうんですよ、そうじゃなくて、それによって何を生み出すかという本質を、やはり見ないといけない。
『鬼滅の刃』はソニーから生まれた
〈今、インターネット企業、コンテンツで稼ぐ企業へと変貌したソニーは、2020年9月年間連結決算では売上高4兆824億円、営業利益5461億円を計上。過去最高益を記録。不採算部門の切り出し、選択と集中を経て、半導体事業に加えて、ゲーム・エンターテインメントのコンテンツ事業がソニーを牽引している。〉
IT化が進むことを止めることはできません。さらにAI化も進む。当然、必要な労働力は少なくなる。けれど一方で、ソニーは今、関連企業が1000社以上あるんですよ。みんな自由勝手に、新しいものを作り出せている。そのなかでソニー傘下のアニプレックスから『鬼滅の刃』も生まれました。映画だけでなく、デジタル配信などさまざまなメディアが絡み合ってあれだけのヒット作になった。あれはハリウッドも気になっているはずです。
IT化が人から仕事を奪うって日本では思われているけども、それは違う。例えば、私は中国の世界屈指のディスプレーメーカー「BOE」(京東方科技集団)のコンサルをここ3年ほどやっています。ここでも、国家主席、習近平の「ハード部門ではなくソフトから利益をあげろ」という大号令を前に、巨大メーカー「BOE」ですら、のたうちまわっている。中国でさえ、ものづくり企業の変化は無茶苦茶に難しいんですよ。
だけど、中国はある“合言葉”で、IT化というソフトと、ものづくりの現場を融合させ新たなビジネスモデルを作ろうとしている。それが「OMO(Online Merges with Offline)」“オンラインがオフラインを融合する”なんて訳されたりもしていますが、携帯さえあれば生きていける中国ではリアルな店舗、リアルな生産現場でもオンラインとの融合に新たなビジネスチャンスがあると、そこに殺到している。
僕はものづくり神話からは脱却すべきだと思うけど、日本が部品などの洗練された技術を持っているのは確かです。これほど洗練された製造業を持っている国は他にない。しかし、それを活かそうという発想が日本では生まれてこない。そのキーワードは“分断”ですよ。