元ソニーCEOとしてデジタル路線への改革を主導した出井伸之氏が肝不全で亡くなった。84歳だった。
ソニーCEOを退いた後はベンチャー企業を支援する法人・クオンタムリープを創業。亡くなる間際まで経営に携わった。
その出井氏の最後の著作が、3月末に刊行された『人生の経営』(小学館新書)だった。「人生のCEOはあなた自身」「サラリーマンこそ冒険しよう」「左遷だって自らの糧にできる」「定年という考え方をやめよう」……同書に綴られているのは、生涯現役時代に悩む中高年ビジネスマンへのメッセージだった。
構成を担当したノンフィクション作家の児玉博氏が語る。
「刊行してすぐに事務所を訪ねたら、大変喜んだ様子でした。しかし、その1週間後には入院することになり、いくつか依頼のあったインタビューもすべて断わることに。極秘で闘病を続けていましたが、一度は大好きな肉が食べられるまで快復したと聞いていたので、訃報を聞いて大変驚きました」
結果として遺作となったが、それは偶然ではないと、児玉氏は言う。
「出井さんは、井深大さんや盛田昭夫さんら錚々たる創業者世代が率いてきたソニーで、初めて新卒サラリーマンから経営者になりました。その間には左遷も経験したし、その後も経営者としては毀誉褒貶あった。だからこそ、『最後にサラリーマンたちを勇気づけるメッセージを遺したい』という想いがあったそうです。本人からは『この本ができたら、今度は僕の評伝を書いてほしい』とも言われていましたが、その時点ですでに覚悟をしていたのかもしれません」
ご冥福をお祈りしたい。
※週刊ポスト2022年6月24日号