ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから4か月が過ぎた。この間、欧米をはじめとする西側諸国はウクライナを支援する傍ら、「経済制裁」によりロシアに圧力をかけ続けている。米国のデータ分析サイトによると、西側諸国がロシアに発動した制裁は、個人の金融資産凍結、国際的な決済ネットワークSWIFTからの排除、ロシア産原油の禁輸など、1万件を超えたという。しかし、ロシアのプーチン大統領は6月17日、「欧米による経済制裁は失敗」と明言している。ロシアへの経済制裁にどのような抜け道があるのか。そしてそれを塞ぐ手立てはあるのか。歴史作家の島崎晋氏が考察する。
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6月16日、ロシアのウクライナ侵攻に関して、イギリス政府はロシア正教会の最高指導者であるキリル総主教に対し、ウラジーミル・プーチン大統領への支持とウクライナ侵攻への賛同を理由に制裁を科すと発表した。これにより、キリル総主教の英国内の資産が凍結され、イギリスへの渡航が禁止される。制裁対象となったロシア正教会の総主教キリルとはどんな人物なのか。
聖職者の家に生まれたキリルがモスクワ総主教に就任したのは2009年のこと。就任当初からプーチンと歩調を合わせ、〈2012年には、プーチン氏の統治こそソビエト連邦崩壊後の経済的混乱に終止符を打った「神の奇跡」だと評し、「ウラジーミル・ウラジーミロビチよ。あなたは、わが国の歴史のねじれを修正するため自ら大きな役割を果たした」と称賛した〉という(AFP通信2022年5月15日付「クレムリンに忠誠、ロシア正教会のキリル総主教」より)。
その後も同性婚や性的多様性を罪と宣言するなど、保守的な態度を取り続けた。今回のウクライナ侵攻に関しては、〈軍事作戦を支持し、「国内外の敵」と戦うため結集するよう信者に呼びかけ〉るとともに、〈ロシアとウクライナの歴史的な「一体性」に反する「悪の勢力」との戦いについて語〉るなど、プーチンへの支持は揺るぎない(前掲記事より)。
このため、欧州連合(EU)欧州委員会がロシア産石油の段階的禁輸を含む対ロシア経済政策の一環として、ロシア政府関係者58人に対する経済制裁を検討した5月には、キリル総主教の名もリストに含まれていたのだった(その後、EU加盟国のハンガリーが反対したため、キリル総主教の名はリストから外された)。