2025年に患者数が700万人に上ると予測されている「認知症」。老親のどちらか一方でも患うと、「相続」に大きな影響を及ぼすことになる。ファイナンシャルプランナーで介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子は、親子でしておくべき手続きが漏れることで、“負の遺産”が生じるケースがあると注意を促す。
「年金の受け取り口座と公共料金の引き落とし口座を分けている一人暮らしの高齢者の場合、認知症になってお金を移すことができなくなれば、電力会社からの“引き落とし不能”通知にも対応できずに電気が止められる恐れがあります。それが夏場であれば、最悪の場合、熱中症で孤独死してしまうことも考えられる。
遺族の心情的な負担が大きくなることはもちろん、長期間、孤独死したことに気付かなければ実家は“事故物件”となって、売却しようにもなかなか売れず負の遺産と化してしまいます。こうした点からも、元気なうちに預貯金口座をまとめておくことは必須です」
「パソコンやスマホのパスワード」の共有の仕方にも、注意が必要な場合がある。
「これは実際にあった例ですが、認知症の男性の死後にパソコンやスマホから浮気相手とのメールや写真が出てきたことがありました。特に夫の介護を懸命にしてきた妻は『生前の違和感はこういうことだったのか』と憤り、非常にショックを受けていました。これもある意味、心情的な負の遺産です。浮気を肯定するわけではありませんが、妻や子供に見られたくないものがある時は、信頼できる第三者や業者にパスワードを伝えるようにして、死後は削除を依頼するのが得策かもしれません」(太田氏)
元気なうちは暮らしに潤いを与えてくれる犬や猫などのペットも、飼い主が認知症になったり亡くなったりした後は、誰かに世話を依頼しなければならない。できれば元気なうちに、ペットの行き先を決めておく必要がある。
「飼っている犬や猫の面倒を誰に頼めばいいのか、不安に思われている高齢者の方は多いようです。特に近年は飼育環境の変化や動物医療の発展により、ペットの寿命も延びている。認知症になると飼い主自身の意思でペットの行き先を決めて手続きをするのが難しくなる。早めに考えたほうがいいでしょう」(太田氏)
いくらしっかりしている人でも、病気やケガはある日突然、襲ってくる。「あんなに頭がハッキリして元気だったのに……」となってからでは手遅れだ。離れて暮らす親がいる場合は、体調変化に気を配りつつ、万全の策を講じておきたい。
※週刊ポスト2022年7月8・15日号