2025年に患者数が700万人に上ると予測されている「認知症」。老親のどちらか一方でも患うと、「相続」に大きな影響を及ぼすことになる。最悪の場合、何年もかけて行なってきた相続対策が無駄になることも。
一方で、相続する側に認知症の人がいる場合もトラブルが発生しやすい。家族間のトラブルに詳しい、弁護士法人北千住パブリック法律事務所の寺林智栄弁護士の指摘。
「相続する家族の誰かが認知症の場合、納税する相続税額に影響が出たり、遺産分割協議が円滑に進まなくなることが考えられます」
相続人でも認知症になると法律行為を行なえなくなる。そのため、遺産分割協議にも参加できず、「成年後見人」を立てなければならなくなる。成年後見人を立てることで、遺言書の内容が履行されず、事前に準備してきたはずの相続対策が無駄になることもあるのだ。
「例えば、父が亡くなり母と子供2人の計3人が相続するケース。このケースでは、もともとは子供2人に遺産のすべてを相続させるはずだったとします。ところが、母が認知症になったため、成年後見人をつけることになった。遺言書の内容では母の相続する額がゼロで法定相続分に満たないため、成年後見人が母の遺留分を主張した。それにより余計に相続税がかかってしまうのです」(寺林氏)
このケースについて図で解説したが、父と母に4000万円ずつの財産があり、父の遺言書には「子供2人に2000万円ずつ相続させる」となっていた。相続税には基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人数)があるので、そのままなら相続税はかからず、母が亡くなった後の二次相続でも、同様に相続すれば基礎控除の範囲内なので相続税は発生しないはずだった。