しかし、母が認知症になり、成年後見人は母の財産を守るため、父の財産の4分の1を遺留分として請求。母に1000万円が渡ったことで母の財産は計5000万円となり、母の死亡後の二次相続の際、子供2人に相続税がかかってしまうのである。
「成年後見人は裁判所の監督のもと、認知症の母の権利を守るのが仕事なので、遺言書で示されても最低限の遺留分(妻は4分の1)を確保しようとします。遺言書がなかった場合、成年後見人は法定相続分(妻は2分の1)を守ろうとするので、妻の取り分はもっと増えてしまうことになります」(寺林氏)
弁護士などが成年後見人になった場合、財産に応じて払う報酬分も遺産から目減りすることになる。
また、相続人の誰かが認知症と診断されると、遺産分割協議がまとまらずに相続手続きに何年も要することも。
「相続人同士で相続財産の割合を決める遺産分割協議に参加できない人が出るため、いつまで経っても遺産分割が終わらないケースもあります。
特に不動産がある場合、認知症の人がいて遺産分割協議が進まないと、その間に不動産価格が変動してしまうので、評価額を調べ直したり、新たな評価額で遺産分割を再調整したりと面倒になります」(寺林氏)
被相続人でも相続人でも、誰かが認知症を患うと相続はトラブルが起こりやすい。そう認識したうえで、それらを解決する一助となる制度の理解を深めていくとよい。
※週刊ポスト2022年7月8・15日号