麻衣子たちの生活をなんとか立て直すべく、知恵を絞って裏技を伝授するのが、ライターの善財夏実だ。
「もし困っている若い人が近くにいたら、私だったらどうアドバイスするだろうと、いろいろ考えて出てきた自分なりの答えを小説に書きました。職業的に自分に近いということもあって、登場人物の中でも思い入れがあるのは夏実ですね。フリーランスとして、書き続ける場を変えなきゃいけない、といった彼女の状況も、自分と少し重なるところがあります」
すべて本当のことを書いているわけではないけど、「本当の欠片から派生した物語なので嘘ではありません」と原田さんは言う。
主婦のみづほが実践する節約料理や、彼女が手がけることになる不動産投資の方法ひとつとっても、堅実で、リアリティーがあり、小説の読みどころのひとつとなっている。
「節約料理は結構、得意ですよ。ひき肉を買うのではなく、100グラム38円の鶏むね肉を買ってきて、自分でひき肉にしたりしていたんですけど、肉をひいた後のブレンダーを洗うのがすごく大変で、1年ほど前に、『もういいかな……』と思ってひき肉を買うことを自分に許しました(笑い)。でも、そうやって工夫するのはいまも好きですね」
【本の内容】
会社の同僚と結婚をし、ひとり息子にも恵まれ、専業主婦として穏やかに暮らす葉月みづほ。食費を抑え、洋服はメルカリで買う節約に勤しむ彼女の夢は、いつか憧れのハワイへ行ってヴィトンの長財布を買うこと──。目標の60万円を貯めて夫を説得して念願のハワイで財布を手に入れるが……。みづほが金策のために手放した財布はその後、次々と持ち主を変えて……知らず知らずのうちにお金の知識まで身につくエンタテインメント小説。
【プロフィール】
原田ひ香(はらだ・ひか)/1970年神奈川県生まれ。2005年「リトルプリンセス2号」でNHK創作ラジオドラマ大賞受賞。2007年「はじまらないティータイム」ですばる文学賞受賞。著書に『ラジオ・ガガガ』『ランチ酒』『三千円の使いかた』『DRY』『まずはこれを食べて』『口福のレシピ』『そのマンション、終の住処でいいですか?』『古本食堂』ほか多数。
取材・構成/佐久間文子 撮影/浅野剛
※女性セブン2022年8月18・25日号