日本は世界屈指の長寿国だが、社会問題化しているのが高齢者の一人暮らしの増加。内閣府がまとめた「令和3年版高齢社会白書」によれば、2015年には65才以上の人口のうち、男性の13.3%、女性の21.1%が一人暮らしをしており、今後この数字はさらに上昇すると予測されている。
高齢者の一人暮らしには、病気や怪我、認知症の進行、特殊詐欺などの犯罪被害、強い孤独感など、さまざまなリスクが潜む。健康な子供がいれば同居するのが理想的かもしれないが、それが叶わぬことは多いもの。一戸建ての実家から生活をダウンサイジングさせるべくマンションに引っ越すケースもあるが、居住環境の急な変化がトラブルを生むこともある。
東京都S区に住むMさん(50代/女性)は、神奈川県の実家に住む70代の父親に、数年前にマンションに引っ越してもらった。実家で長らく一人暮らしをしていた父親は、リタイア後にすっかり無気力になり、家の中も散らかり放題に。見かねたMさんは、実家の近所にマンションを借り、そこに父を移ってもらったが、70代にして集合住宅デビューした父親の振る舞いに頭を抱えてしまったという。
「引っ越してしばらくして父の新居を訪ねた時のことです。冬だったのですが、父は『とにかく暖かい』とご満悦。ボロボロの実家はすきま風が酷く、冬は暖房をつけっぱなしにしてもブルブル震えていましたが、『マンションはエアコン1つで常夏だぞ!』と、大満足の様子でした。ただ、気になったのは室内のインテリア。壁に掛けられている時計、カレンダー、絵などは、全て釘に引っ掛けられています。賃貸の部屋なのに、父親は30か所以上、壁に釘を打っていたんです。
帰る時、管理人の方に挨拶すると、『Mさんの娘さんですか。ちょっとよろしいですか?』と言われました。話を聞くと、父は管理人のことを“便利屋さん”か何かと勘違いしており、『部屋の電球を交換してくれ』『荷物が届くけど、出かけるから受け取っておいてくれ』『部屋の前に古新聞を置いたので、早く持っていってくれ』などと、雑用を頼みつけているのだそう。言葉は丁寧でしたが、“迷惑している”ということで、顔から火が出ました。
慌てて部屋に戻り、父に注意すると、悪びれもせずに『高い管理費を払ってるんだぞ!』と言うではありませんか。我が父親ながら呆れ果てました」(Mさん)