私が2才7か月のときに実父が亡くなって(享年32)、その直後だから、3才になる前のこと。縁側に立った母ちゃん(当時32才)が、庭先に立っている細身の中年女性をものすごい勢いで怒鳴りつけていたの。
「ふざけんなッ、帰れ、帰ってくれ」と言ったかどうか、正確な言葉まで覚えてないけれど、とにかく尋常な怒り方じゃない。怒鳴られているおばさんもまた差し迫った顔で、何かを言い返している。それを私は母ちゃんの後ろに隠れて見ていたんだよね。
後から知ったことだけど、そのおばさんはある宗教の熱心な信者で、茅葺き屋根でいかにも貧しげなわが家に布教の足を運んでいたの。それも何回も何回も。同じ町内に住んでいたから、実父がとんでもない酒飲みだということも、わが家の経済状況も耳に入っていたと思う。
その実父が亡くなった。そしたらおばさんはわざわざ、「あのとき入信していたら、旦那さんは亡くならなかったのにね」と言いに来たんだって。
結婚して4年で夫に急死され、「目の不自由な姑と2人の子供を抱えて、これからどうやって生きていこうと思ったら、泣いているどころじゃなかった」という母ちゃんの神経を、これ以上逆撫でした言葉もないわよ。
結婚した夫がS教の2世で
それ以来、母ちゃんはその宗教(仮に「S教」とする)が大っ嫌い。S教だけじゃない。「熱心に信心したり、それを布教するヤツなんかロクなもんじゃない」と決めつけるようになったの。
なのに、私はその後、S教と強いかかわりを持つようになるんだから、運命は皮肉だよね。
……24才で結婚した夫(当時31才)がS教の2世だったんだけど、彼と出会ってすぐ、そのことは聞いていたの。「母親が入信して一家でS教になったんだけど、いま活動しているのは母親と姉だけ。男兄弟3人と父親はそれを遠巻きに見ている感じ」と説明されたから。
「結婚したら親と同居してほしい」と言われ、「いいよ」と同意したけれど、もしあのとき夫がバリバリのS教信者で、入信することが条件だったら結婚はしなかった。
でも世の中、甘くないね。