「何がやっぱりなの?」と聞くと、「あ、すみません。私、お勤めをしながら、時間があるときにこうしてお声がけして手相を見させていただいているんですよ。だけど、ここまでお顔の相がいいかたにはなかなかお会いできなくて。手相を見たらホラ、仏の目。ああ、左手にもありますね~。わあ、すごい。こんな人、めったにいません」と感激しているんだわ。
あのさ。離婚後、たった2年足らずの間に、私は200万円以上の借金を背負わされてんだよ。不実な男が契約した中古車のローンと、そいつがセールスしていたレコードセットの代金を肩代わりして。で、その挙げ句、別れたんだよ。「ケッ、何が仏の目だ」と喉元まで出ていたわよ。
だから、「もう少し時間があったらお話ししませんか? お茶、おごらせてください」と言われたときは、この際だからグチを全部吐き出してやれ、と半ば捨て鉢でついていったわけ。……これが私の甘いところなのよね。
ひとしきり“現状”を吐き出してスッキリした私は、その子とちょっと親密になった。そのK子さんが「私の占いの師匠にもう少し詳しく見てもらいませんか? セミナーも受けられますよ」と言う。年下のK子さんに身の恥を曝した手前、彼女の顔を立ててやろうかなと仏心が出てきた。それどころか、私の心臓を貫くような啓示が降りてきたらK子さんたちの仲間になってもいい、と何%かは思っていたから恐ろしい。
「私、来年の秋になったら結婚できそうなんです
連れて行かれた「ビデオセンター」はパーティションで区切られた半個室で、「神の国」とか「元祖人間は」という男性の声が流れていた。なるほど…でも…もう……目を開けていられない。いつの間にか私は爆睡していたのよね。
「ごめん。寝ちゃったし、言っている内容もよくわからなかった」とK子さんに言うと、「大丈夫です。魂が聞いていますから。それに、さすがは仏の目をお持ちのかたです。寝姿も上品ですね」ときた。
そして、K子さんから「私の師匠です」と、目つきの厳しい中年女を紹介された。その女、私の前に座るなり、「結婚前から男とセックスして天に恥じないんですか!」と、いきなりこう言ったのよ。喫茶店でお茶をおごられたときに私の男性遍歴も話して、K子さんはそれをA4サイズの紙にまとめたのね。中年女はそれを見ながら私を裁き出したの。
「え~ッ、初めて会った人からそんなことで怒られる筋合いはありませんけど」と軽く反論したら、「あなたのような人が地獄に落ちるんです。このままいったらもっと不幸になります。それを救ってあげようとK子さんがここまで導いてくれたのに、何ですか、その態度はッ」と声を張り上げられたから、あぁ、もう黙っていられない。