調査によれば、50代の女性たちはほかの世代と比べても、熱心に料理に向かい合っていることがわかった。
「『一から作る手料理』や『手塩にかけた料理』を自分で作るのもこの世代の特徴です。さらに『おいしい料理を作ることは食べる人への愛情表現のひとつだ』『食べるのが自分ひとりだと、簡単で手早く作れる料理で済ますことが多い』と回答した人の割合もほかの世代と比較して高めです。
そうした調査結果からわかることは、彼女たちは家族のために愛情を込めてきちんと料理をしてきたからこそ、その重圧に疲れ、『もうやりたくない』と思っているのだと考えられます」(夏山さん)
「重圧」は意外な形で、女性たちを追い詰めている。たとえば、料理の手間を省く「時短」だ。2020年にSNSを中心に大論争を巻き起こした「ポテサラ事件」を覚えているだろうか。スーパーでポテトサラダの総菜を買おうとした子供連れの女性が、見ず知らずの高齢男性に「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と話しかけられているのを目撃したというインターネットへの書き込みが話題になった。同時期、疲れて帰宅した妻が夕食に冷凍餃子を出したところ、「餃子おいしい!」と喜ぶ子供に、「手抜きだよ。これは“れいとう”っていうの」と言い捨てた夫も注目された。
冷凍食品ジャーナリストの山本純子さんは「総菜や冷凍食品を“手抜き”と言うのは時代錯誤」とため息をつく。
「ルンバや全自動洗濯乾燥機など、家電が大きく進化を遂げたおかげで掃除や洗濯は劇的に楽になったし、会社員の仕事も、郵送していたものがメールで済ませられるようになったり、会議をインターネット上で行うようになったりと短時間で成果を上げられるように変化しています。にもかかわらず家庭料理だけがいつまでたっても“時間をかけること=手間”を美徳とする風潮があるのはなぜでしょうか。
現代において、総菜や冷凍食品をまったく使わずに一から調理を求めるのは、“洗濯板で洗濯物を洗うことを強いる”のと同じくらいに感じます」(山本さん)