「ビジネス書大賞2011」大賞を受賞し30万部を超えるヒットとなった『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』など、ビジネス書のベストセラーを生み出し続けている一橋ビジネススクール教授・楠木建さんの新刊『絶対悲観主義』(講談社+α新書)が注目を集めている。楠木さんの仕事哲学について、話を聞いた。
ぼくのような性分だとこう考えるのが一番しっくりくる
「自分の思い通りにうまくいくことなんて、この世の中にひとつもない」──。そういう前提で仕事をした方がいい、というのが楠木建さんの『絶対悲観主義』だ。
GRIT(困難に直面してもやり抜く力)とかレジリエンス(逆境から回復する力)といった言葉がもてはやされる昨今、一橋ビジネススクール教授で「競争戦略」の第一人者から、「仕事なんて、きっとうまくいかない」と言われると、「え、そうなの?」と驚く。驚きつつも、具体的に、笑いもまじえてわかりやすく説明されると、ビジネスの第一線にいなくても、なるほど、と思うことが多い。
「大前提として、こういう考え方に賛同するかどうかは、その人の気性によるところがすごく大きいです。自分の限界に挑戦しようとするアスリートタイプの人だと、『何言ってんだ』と思うかもしれません。ぼく自身、一般的にこれが正しい考え方だとは思っていません。ぼくのような性分だとこういうふうに考えるのが一番しっくりくる、というだけの話です」(楠木さん・以下同)
楠木さん自身の仕事の哲学を著した本は多くの読者に読まれているが、中には、「自分はやっぱり楽観主義でいきたい」という感想を書いてくる人もいたそうだ。そういう人に無理に自分の主義を押し付けるつもりはない、と言う。
「ただですね、仕事である以上、全部自分の思い通りになるなんて変だと思うんです。仕事は趣味ではありませんから。趣味であれば100%自分が楽しければそれでいいけど、仕事にはお客さんがいます。お客さんというのは、自分の思い通りにならない人で、その意味では上司や部下も『お客さん』です。
どんなに力のある経営者でも、無理やり、自分の会社の商品やサービスを買わせることはできません。いくら宣伝したところで、最終的な決定権というのは消費者自身にしかない。そもそも、仕事っていうのは自分の思い通りにならない人に向けてやるものです。そうした本質を考えると、仕事が自分の思い通りにうまくいくと考えること自体、おかしな話です」
うまくいかないと思って、結果的にうまくいったら、そのぶん成功の喜びも大きい。うまくいかなくても、やっぱりそうかと思うだけで、ダメージはいくらか軽減できる。
それなのに、これが自分のこととなると、「思い通りにいく方がおかしい」という感覚をもつのはなかなか難しい、とも思う。どうしても、「うまくいくのでは」とぼんやり期待してしまうからだ。勝手に期待して、勝手に裏切られた気持ちになる。