キャリア

楠木建氏が説く“絶対悲観主義”の仕事論「仕事は思い通りにならない人に向けてやるもの」

たいていのことは「気のせいです」

 新型コロナウイルスの感染がいつ収束するか、いまだに見通しがたたない。大規模な台風被害に見舞われ、この先、大地震が起こるかもしれない。円安に株価の低落、停滞する経済状況。先行き不透明な世の中に向き合うためにも、いまこそ「絶対悲観主義」は必要かもしれません。そう水を向けても、「そんなことはありません」と楠木さんは否定する。

「台風なんて毎年来るものじゃないですか。夏は暑すぎるってぶつぶつ言う、同じ人が、冬になれば寒すぎるって言うんですよ。人口が増えているときはなんとかして人口増を食い止めなければと言い、減り始めたら人口減が諸悪の根源だと言う。人間の認識の構造がそうなっているんです。この本がどう読まれるかはぼくのあずかり知らないところで読む人の自由ですけど、時代背景はあまり関係ないと思っています。

 結局、思い通りにならないのが嫌だと思っているから、台風が気になって、大変だ、って思うわけです。思い通りにいかないのはおかしい、間違っていると思っていたら、生きてるだけで苦しいことばかりになっちゃいますよ。あっさり言うと、たいていのことは『気のせい』です。『気のせい』ですまないのは戦争と病気ぐらい」

 戦争を抑止するための、かなり思い切った楠木私案が本では紹介されているので、読んでみてほしい。

 企業のウェブメディアで連載していたコラムが本のもとになっている。テーマを決めず、その時々、自分が思うことを書くスタイルなので、書籍化するにあたっては、「絶対悲観主義」というテーマに沿って取捨選択し、手を入れたそうだ。

 仕事を通して、多くの個性的で魅力のある経営者に会ってきた。ファーストリテイリングの柳井正さん、ソニーの出井伸之さんほか、仕事で接したことのある、そうそうたる人物の、それぞれのスタイル、人となりを表すエピソードがどれも興味深い。

 会ったことはないそうだが、本田宗一郎と二人三脚で本田技研を創業した、藤沢武夫にまつわる話も印象に残る。藤沢が退任を決めると本田も退任する。株主総会の後、本田が「まあまあだったな」と言い、藤沢も「そう、まあまあだな」と返す。それだけでグっとくるが、この後、唯一無二のパートナーだった2人が公式の席で会うことはなかった。

「本田さんの集まりになぜ行かないんですか、と聞かれて、藤沢さんは『趣味じゃない』と答えたそうです。ほんとにその通りなんだろうな、って思いますね。その人固有の価値基準こそが人間にとって一番大切で、その人たらしめているものなんですよ」

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