安倍晋三・元首相のもとで「アベノミクス」を先導してきた黒田東彦日銀総裁の任期が、残り半年を切った。「新しい資本主義」を掲げる岸田文雄首相にとって後任選びは最重要事項となるが、岸田首相は金融緩和路線の転換を考えているとされ、新総裁のもとで金融引き締め・利上げへと進む公算は高い。そうなれば、日本経済は未曾有の暗黒時代に突入する危険が迫っている。
欧米のような金融政策の大転換は日本経済にとって両刃の剣でもある。物価高騰を止めるつもりが、国民生活はそれ以上の地獄に突き落とされる危険性を秘める。経済アナリストの森永卓郎氏はこう指摘する。
「日銀総裁が交代すればいよいよ金利が段階的に引き上げられ、現在の0%付近から最大で2%くらいまでいく可能性がある。米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)の政策金利3.25%の水準よりはるかに低いが、そうなったら、日本経済への影響はリーマンショックの時より大きくなるでしょう」
リーマンを超える「倒産」
利上げの影響を最も受けるのが中小・零細企業だ。日本では、過剰債務を抱えて実質倒産状態にあるが、超低金利によって倒産を免れている“ゾンビ企業”が約16万5000社(帝国データバンク調べ)にのぼるとされる。
さらに政府はコロナ禍で売り上げが減少した事業者に、日本政策金融公庫や民間金融機関などを通じて実質無利子無担保の特別貸付を行ない、その貸付残高はなんと約56兆円(2022年3月時点)に達した。ゾンビ企業の8割がコロナ融資を受けており、なんとか生き延びている状況だ。
金融シンクタンク「東短リサーチ」社長でチーフエコノミストの加藤出氏が指摘する。
「この間の金融緩和は日本企業にとって痛み止めのモルヒネを大量投与されているような状況です。借り入れが大きい企業は低金利で少ない利払いで済むし、国際競争力が低い輸出企業も円安でなんとかやってこられた。それが長期間続いたことで日本中にゾンビ企業が増えた。
日本の失業率の低さが先進国トップクラスなのは、金融緩和によって低収益企業が生き残ってきたからですが、逆に言えば、そのことが賃金が上がらない原因でもある。賃金を上げられる会社があまりないわけです。
しかし、これから金融政策を正常化させていけば、痛み止めの効果は弱まり、当然、痛みが来る。マイナス金利を若干プラスにする程度ならまだ影響は小さいが、問題は海外のように、日銀が金利を上げていく場合です。日本経済が“モルヒネ中毒”から脱しようとすれば、禁断症状の苦しさを伴うことは避けられない」