今年、開業150周年を迎えた日本の鉄道。その陰には、縁の下の力持ちとして鉄道を支えている女性たちがいる──。多くの新幹線が分刻みで行き来する東京駅のホーム。到着した新幹線から乗客が降り、次の乗客が乗るまでのわずか7分間で車内清掃を行うのが、JR東日本テクノハートTESSEIの清掃員たちだ。
機敏な清掃だけでなく、列車到着に合わせて整列して15度の角度で一礼し、重い荷物を持つ客を手助けするおもてなしは「7-minute miracle(7分間の奇跡)」と呼ばれ、世界中から称賛されている。
東京駅の現場スタッフは約270名で、うち半数が女性で、彼女たちが毎日、現場で指揮をとっている。
その清掃員を「TESSEIの宝」と語るのは、1966年に国鉄に入社後、40年間にわたり鉄道人として勤務した、おもてなし創造カンパニー代表の矢部輝夫さん。国鉄退職後の2005年にTESSEIの前身に移り、組織を変えた立役者でもある。
「夫を亡くして家計を支えたい女性や企業をリストラされた女性など、さまざまな事情を持つ女性社員が、高いプロ意識を持って働いています。社内全体では男性比率の方が高いのですが、東京駅でチームをまとめる主任はほとんどが50~60代の女性です」
矢部さんの着任当初は、いわゆる「3K」(きつい、汚い、危険)の仕事に従事するTESSEIの従業員のモチベーションは低かったが、人事評価の一新でやる気を引き出し、7分間の掃除を“新幹線劇場のショータイム”に変えた。
「私がTESSEIに来たばかりの頃は、仮眠室に男女の区別はなく、トイレが男女兼用の事業所もありました。一方で、私の母と同じくらいの年齢の女性が懸命に働いている姿に感銘を受け、女性たちがもっと働きやすくなるよう工夫したのです。環境を整えたのはもちろん、年齢や性別に関係なく、純粋に働きぶりだけで評価するようにしたところ、優秀な女性が目立ち、主任職を任せるようになりました」(矢部さん)
かつては男社会だった鉄道業界だが、いまや「女だから」「男だから」といった、不必要な区別は存在していないのだ。
※女性セブン2022年12月1日号