年金制度の仕組みは若い世代が保険料を負担し、高齢者が年金を受給する「世代間の仕送りの仕組み」とされてきたが、現役世代の負担を減らすために支給額がどんどん実質減額されている。そのうえ、医療保険制度ではなしくずしに高齢世代の負担を増やし、資金を子育て費用に回している。そのうえ、前述の「子育て連帯基金」で高齢者の財源をさらに奪おうとしている。経済ジャーナリストの荻原博子氏が語る。
「子育て連帯基金構想を見ても政府が高齢者のための財源を少子化に回そうと考えているのは明らかです。政府は『子ども支援』と言えば高齢者だってかわいい孫の姿を思い起こし、『孫のためなら、負担は仕方ないな』と思うと考えているはずです。果たしてそうでしょうか。
この間、高齢者の年金は目減りし、社会保障費の負担は増える一方です。年金が目減りする中で、少しでも収入を得るために働く高齢者が増えており、生活に不安を募らせている。とても『孫のためなら』と思えるような精神的な余裕はなくなっています。そこに追い打ちをかけるように子育て支援を名目に増税までされるというのは、もう恐怖心しか感じないでしょう」
日本の政治は、若者が選挙に行かないから若い世代向けの政策は「票にならない」と軽視され、人口が多く、投票率も高い高齢世代向けの政策は「票になる」から力を入れるといわれた。それは事実だろう。
しかし、「選挙に勝てさえすればいい」と政治家が長い間、少子化対策を軽視してきた結果、ついに少子化に歯止めがきかなくなった。
そうした政治の失敗を、岸田政権は今度は高齢者にツケ回ししようとしているのだ。