前言を撤回し、釜本氏はなぜ免許返納に踏み切ったのか。気持ちに大きな変化が起きたのは、記事がネット配信された直後のことだった。
「記事のコメント欄にさまざまな世代の人が書き込みをしていて、高齢者が自動車の運転をしていることに対して、いろんな見方があるんだなと感じました。家族もそれを見てから、高齢者の運転を巡る問題に関心を持ったようで、食事中の会話で免許返納の話題が増えたんです」(以下、注記のない「 」内は釜本氏)
そうしたなか免許を返納すべきかどうか、大いに葛藤したという。
「運転にはまだまだ自信がありました。視野が狭くなったということもなく、ハンドルを握っている時に飛んでいる飛行機が見えたほどでした。一方で、危険な目に遭遇したこともあった。前の車が急ブレーキをかけ、危うく追突しそうになったんです。若い頃なら余裕で止まれたと思いますが、その時は少し反応が遅れましたね。
そういう経験とかもあって、自身の運転技能について考える時間が次第に多くなってきた。その結果として、『もう一回だけ更新する』と言ったのを取り消して、今年4月の誕生日の免許証書き換えのタイミングで返納しようと決めたんです」
一番喜んだのは孫娘
2月5日が釜本氏の奧さんの誕生日なので、その日にサプライズプレゼントとして、「次の(釜本氏の)誕生日に免許を返納する」と伝えるつもりだったという。ところが──。
「サプライズ報告する数日前に『返納したらどんな特典がある?』と家族につい訊いてしまった。モノレールが100円引きで乗れるとか、タクシーが10%割引になるとか教えてくれて、『そりゃ、せなあかんなあ』と答えてしまったんです。
そのことが息子や孫たちに伝わり、『それなら一日でも早いほうがいい』と、あれよあれよと話が進み、誕生日から2か月も前倒しで返納することになってしまった。どんどん外堀を埋められて、愛車のベンツも即処分ですわ(笑)」