そう笑いながら話す釜本氏に、後悔の念はあまり感じられない。免許返納をしたメリットも大きかったからだ。
「車を処分してわかったんですが、この3年間で7000kmしか走っていませんでした。それに、家にはガレージがありますが、大阪市内の事務所へ車で通うには、事務所が入っているビルの駐車場を借りる必要があり、この料金もバカにならない。安全だからとベンツに乗っていましたが、車検代やガソリン代、保険代などの維持費を考えると、タクシーやハイヤーを使ったほうが経済的だというのもわかりました」
車を処分したことで、食料の買い出しなどの際に多少不便を感じることもあるという。ただ、そんな時に大きな頼りとなっているのが家族や友人の存在だ。
「事務所との往復は息子の世話になっていて、ゴルフも誰かに迎えに来てもらっています。家族をはじめ、周りの人に助けてもらっていますね」
最後に釜本氏は、微笑みながらこう語った。
「免許返納をして何より嬉しかったのは、家族が喜んでくれたことですね。特に孫娘から、『この年齢でツラい思いをしてもらいたくない』『事故を起こしたら、爺(釜本氏)のこれまでが台無しになってしまう』と言われ続けていましたから。説得されたということではないんだけど、心を動かされたのは間違いないと思います。今回の返納を一番喜んでくれたのは、孫娘かもしれない。どこの家庭でも、おじいちゃんは孫に弱いよね(笑)。
今でも自分の心の中では、問題なく運転できる自信がある。そんなボクが返納に踏み切れたのは、家族が背中を押してくれたからだね。今は晴れやかな気持ちですよ」
(*後編〈釜本邦茂氏も決断 高齢者が「運転免許返納」をスムーズに実践するための道筋〉につづく)
※週刊ポスト2023年2月24日号