米欧を震源とする金融不安、インフレの高止まりなどから、世界経済はハードランディングの危機にある。中国が昨年12月、ゼロコロナ政策を事実上解除したことで、2023年の中国経済は急回復、世界経済に大きな需要をもたらすだろうとの期待があった。それが世界経済に関する数少ないポジティブ材料の一つであったが最近、その期待を揺るがしかねない統計が出始めた。
中国国家統計局は5月11日、4月の物価統計を発表した。それによると、消費者物価指数は3月と比べ0.6ポイント低下し0.1%上昇にとどまった。これは2021年2月以来の低い上昇率であり、前月との比較では3か月連続の鈍化である。
さらに、生産者物価指数は3月と比べ1.1ポイント低下し、3.6%下落した。これは2020年5月以来の低い水準だ。昨年10月以来、前年同月比割れが続いており、今年に入り下落幅は拡大を続けている。
このほか、4月の輸入(ドルベース)は7.9%減。昨年10月以降、2月を除いてすべて前年同月比割れとなっており、2か月連続で下落率が拡大している。4月の製造業PMIは景気の拡大、縮小の分かれ目となる50を割り込む49.2となり、昨年12月以来の50割れを記録した。5月16日に発表された4月の経済統計をみても、消費、鉱工業生産は好調だが、固定資産投資の鈍化、不動産投資の悪化は止まらない。
1-3月期の実質経済成長率が市場予想を大きく上回る4.5%であったことから、市場関係者たちの景気回復に対する見通しは年初から後退していないが、改めて1-3月期の成長について分析してみると、物価の安定や第3次産業やサービス需要の急回復などに支えられたものであり、不動産開発、設備投資の遅れの目立つ不均衡な回復であったことに気づく。
不動産需要の構造的な変化もあるか
中国共産党中央政治局は4月28日、会議を開催、足元の経済情勢を分析しているが、それをみると、「ゼロコロナ政策に伴う需要収縮、供給ショック、期待の低下といった三重苦は緩和され、景気は回復に向かっている」と認識するものの、「足もとの景気回復は主にリバウンドによるもので、内生する経済を牽引する動力はまだ強くなく、需要は依然として不足しており、経済のレベルアップを進める上で新たな障害に直面している」などと分析。さらに「質の高い発展を推し進めるには多くの困難・チャレンジを克服しなければならない」と強調している。
つまり、中国共産党は現在の局面について決して楽観視していないことがわかる。需要が不足している以上、今後、いま以上に積極的な財政金融政策が打ち出されるだろう。国、地方の債券発行枠を広げ、インフラ投資を拡大させる。利下げにより、民間投資を引き出させるとともに、オートローン、消費者ローンを活発化させ、新エネルギー自動車や、耐久消費財需要を刺激する。