衣類や小物類を作るのはもちろん、子供の通園・通学グッズ作りにも重宝するミシン。ネットオークションには、中古の高級ミシンが格安で数多く出品されているというが、なぜ供給は途切れないのか。どういう経緯で出品されるのか──。手芸好きの『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんが、その裏側を考察する。
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春本番、新入学の小学生がいまだ初々しい。朝、自宅マンションのエレベーターに乗ると、キラキラ光るランドセルを背負った子と一緒になるんだわ。付き添いのパパの手には、手作りの上履き入れと、お揃いの柄のトートバッグが握られている。それを見るたび私は「あ~あ」と声にならない声を上げる。
手芸好きの私は、パパの手にある袋がどの程度のレベルのものかをピタリと当てる自信がある。ミシンに慣れている人が縫ったのと、不慣れな人が作ったのとでは、仕上がりが天と地ほど違うもの。で、私が「あ~あ」と思うのは、慣れない人が作った方。「やめときゃいいのに」とも思う。もちろん大きなお世話だから、口には出しません。縫い物に不慣れな新米ママのおかげで、私は“濡れ手で粟”をたっぷり得ているしね。
それが何かは後述するとして、昭和の初めに生まれた私の母は、私が24才で結婚したときに、嫁入り道具として婚礼家具セットを買い、和だんすいっぱいに着物を詰めて、ものすごく重たい電動ミシンも持たせてくれたんだわ。なのに、不精の娘は20代から40代までは離婚したりギャンブルをしたりライター業が忙しくなったりで、手芸どころじゃない。母親が買ってくれたミシンも粗大ゴミ行きよ。
高級ミシンが格安で出品されている現状
ところが、50代の初め、手芸に目覚めた私は急に布とミシンを触り出した。
最初は2万円ほどのミシンを買って、バッグや帽子、スカートやブラウスを縫っていた。でも、洋裁教室に通い始めて、縫い目がきれいに仕上がる職業用ミシンの存在を知ったら、もう元には戻れない。同じ機種の中古を3万円で買ったあたりからおかしくなったの。
洋裁仲間でお金持ちのYさんは、「最高のミシンは国産のコンピューターミシン」だと言う。そのミシンは定価34万円もするんだけど、それを10年以上使っているYさんは「なんの不満もない」と自慢げだ。
そこで私も即、ヤフオク(Yahoo!オークション)で同じミシンを落札した。その値段、送料込みでなんと8000円!
私は当時、帽子の大きなつばにかたつむりのようにミシンをかけるのに熱中していて、早速、それまでのミシンとコンピューターミシンを代わる代わる使って比べてみた。いやいや、34万円はダテじゃなかったね。コンピューターミシンはタタタ、タタタといい音をさせながら、実にきれいに仕上げてくれた。
それで勢いづいた私は、再びヤフオクをのぞいてみた。すると、同じ高級ミシンが5000円で出品されていたり、3000円なんてときもある。どんな?という好奇心やみがたく、結局は、次々に落札。まったくダメなのを1台つかんだこともあったけど、ふんっ、定価34万円を数枚の青い札で手に入れているんだよ。なんの文句がありましょか。