最低賃金が過去最大の50円アップで全国平均1054円になることが決まった。今春闘でも平均賃上げ率が5%を超える高水準となるなど、賃上げムードを強調するニュースが続いている。だが、すべての労働者が賃上げの恩恵にあずかれるわけではない。コストが上昇しても価格に転嫁できない業種・業界では、社員の給料にしわ寄せがいくことも多い。その典型が運送事業者だ。「物流2024年問題」が深刻化する中で、現場では何が起きているのか?
人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏(人口減少対策総合研究所理事長)が解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。
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荷物の輸送が滞る「物流2024年問題」という言葉がすっかり定着したが、物流クライシスは日本崩壊の号砲となるかもしれない。
「物流2024年問題」とは、2024年4月からトラック運転手の時間外労働に960時間規制が課せられたことで発生する問題だ。人手不足に拍車がかかり、輸送力が不足して運賃の上昇だけでなく、これまでのようには荷物が届かなくなることが懸念されている。
これは、運送会社にとって死活問題である。時間外労働の規制強化によって1日に運べる荷物量は減る。運べる荷物が減ると運賃を上げざるを得ないが、荷主に対して立場が弱く十分な値上げができないという事情もある。
運送業は典型的な労働集約型産業だが、運送コストで最も大きいのは人件費である。運転手を増やすには処遇の改善が不可欠だと分かっていても、十分な収益を得られなければ、それもままならない。無理な賃上げは倒産リスクを高めるだけである。