今年の夏の第106回全国高等学校野球選手権大会は、甲子園球場での開催が始まってちょうど100回目だった。これまでグラウンド上で数多の名場面が繰り広げられたが、野球少年の母たちが声を張り上げるアルプス席にこそドラマがある。高校球児の母たちの裏側に迫る──。【母たちの甲子園・第1回】
「神様、どうか打たせてあげてください。捕らせてあげてください……」
数年前の盛夏、灼熱のスタンドで祈るような思いで白球を見つめていたのは、栃木県のAさん(46才)。息子が甲子園に出場した際、アルプス席で神頼みを繰り返した彼女は「甲子園の暑さは選手たちの情熱でした」と語る。
「いま20代の息子が野球を始めたのは小学校の頃。スポーツとは無縁の人生だった私は、息子のおかげでさまざまな喜びや感動を体験できました。甲子園では感じたことのない圧倒的な雰囲気にのみ込まれそうでしたが、息子がヒットを打ったときは大騒ぎして観客席の椅子から転げ落ちるほど興奮していました(笑い)」
全国3715校の高校球児が各地で熱戦を繰り広げ、選ばれし49校が足を踏み入れた今夏の甲子園。選手を支える家族、とりわけ母にとっては息子と“一心同体”で掴んだ夢の切符だ。
群馬県のBさん(49才)の息子は、未熟児で生まれた。小さくか弱い守るべき存在だったわが子の背中はいつしか大きく精悍になり、甲子園へと導いてくれた。
「体が弱かった息子が野球を始めてたくましくなったことが母としてはいちばんうれしい。観戦に訪れた甲子園では息子の一挙手一投足から目が離せず、試合後は自分がプレーしたかのようにぐったりしました」