キャリア

【建設現場のリアル】高齢化が進む業界で「働き方改革」から生じる深刻な副作用 残業を苦にしない世代と下の世代にギャップ、「教える時間もなく若手が育たない」懸念も

疲弊する建設業界のリアル(イメージ)

疲弊する建設業界のリアル(イメージ)

 人手不足が叫ばれて久しい建設業界。国土交通省が今年6月に発表した資料によれば、建設業就業者数の総数は1997年の685万人をピークに減り続け、2023年で483万人。2022年の479万人からは微増したものの、その増えた分の多くはは55歳以上――つまり、高齢化が加速している。

 世代別にみると、2023年時点で55歳以上が36.6%、29歳以下が11.6%。同省も「高齢化が進行し、次世代への技術承継が大きな課題」としているが、若手が集まりにくい背景には、「残業が苦にならない」上の世代と「プライベートの時間を大事にしたい」下の世代との意識ギャップも関係しているようだ。

世代によって残業に対する意識の差が大きい

 都内の電気設備系企業に勤務するHさん(30代・男性)は、「働き方改革なんて、現場を知らないからこそ言えること」とため息をつく。

「納期が最初から決まっているため、天候やさまざまな変更対応で現場のスケジュールは詰まる一方。ただでさえカツカツな人員でやっているのに、上の人は『職人に残業はさせるな』と無理難題を吹っ掛けてきます」(Hさん、以下「」内同)

 2024年には「働き方改革関連法」が適用されたが、Hさんの職場では「実態としては変わっていない」という。

「本社では仕事のDX化、IT化なんて言っていますが、勤怠管理表からして手書きのまま。職人には高齢者が多く、彼らは教えても覚えようとしないばかりか、『こんなことやらせるな』とキレかかる始末。使い方を丁寧に指導する余裕もなく、結局手書きで書かれたものを、私たちがパソコンに打ち込んでいます。

 労働時間についても、工期に間に合わせるためには残業するしかありません。悪天候が続いたり、アクシデントが起きたりすると、現場は火の車。もちろん会社は残業をさせてはいけないテイなので、賃金が払われるはずもなく、上限を超えるとサービス残業です」

 Hさんは、「特に国が絡む案件になると、工期が厳しいことも多い」とぼやく。

「これまでで酷かったのは、東京五輪で国立競技場の建設に携わっていた時でした。図面を書き終わると深夜2時。最も残業が多かった月は230時間です。毎日寝不足の中で仕事をしていたので、発注ミスも日常茶飯事。同僚が寝不足で配電盤の前で倒れてしまい、重大な人身事故に繋がりかねないこともありました。今、大阪万博建設での工期遅れが散々指摘されていますが、『だろうなあ』という感想しか出てきません。人がいないのに、最初から無茶な納期という工事が横行しているんです」

 過酷な現場でHさんは、世代によって意識の差があることを実感している。

「上の世代は、『仕事があるのはありがたい』という考えの人が多く、残業も嫌な顔をせずやるのですが、下の世代は、お金にならない残業はしたくない。“他にもいい仕事があるのでは”という感じで、常に転職サイトを眺めているような人も多いです」

次のページ:作業は減らず納期は遅れていく
関連キーワード

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。