人事評価に不満を持つ人は多い
年功序列を続けてきた日本企業が、“ムダ”な人件費を抑制するために、欧米流の成果主義を採用するケースは少なくない。成果主義は、成果に見合った賃金により社員一人ひとりのモチベーションを高める一方で、成果の上がらない社員への給与は抑制できる点で合理的とも言える。しかし、副作用も存在する。
部下の評価を上げ下げするアメとムチを操り、優位な立場にあぐらをかく上司が増えると、「こんな理不尽な会社、もう辞めたい……」という思いをする若手が増える。そうした状況が長年続くと、厳しいグローバル競争には勝てない――と警鐘を鳴らすのは、マネジメント理論をあらゆる産業界、行政改革で実践している、ゴールドラットジャパンCEO・岸良裕司氏だ。
岸良裕司氏の著書『組織をダメにするのは誰か? 職場の問題解決入門』(クロスメディア・パブリッシング)では、組織にまん延する“思い込み”を害虫に例え、対処法を紹介。同著より、一部抜粋・再構成してお届けする。【全4回の第4回】
成果主義が引き起こす悪循環
「こんな理不尽な会社、もう辞めたい……」
評価の季節にこんな思いに駆られたことがあるなら、あなたの職場に「セイカシュギ虫」がすでにまん延している可能性が高い。
「セイカシュギ虫」は、年功序列が続いてきた日本企業が人件費を抑制するために導入した「欧米流の成果主義」とともに広がった「外来種」だ。ところが、多くの日本企業では、このセイカシュギ虫のさまざまな弊害が明らかになってきた。
評価に対する不満、モチベーションの低下、個人主義の横行……成果主義が引き起こす悪循環からなんとか抜け出そうと、経営幹部は人事部門に強いプレッシャーをかける。対応に迫られた人事担当者は、評価基準を明確にしたり、報酬体系を見直したり、360度評価を導入したり、ジョブ型人事を導入したりと、矢継ぎ早に人事改革に着手する。
しかし、目立った効果が出ることはほぼなく、むしろ、評価に対する不平・不満が増えて人事担当者をより苦しめる。
このような状況は「DXアオリ虫(=あらゆる分野でDXを推進すべきという“思い込み”)」の大好物でもある。最先端の人工知能(AI)を搭載した「HRテック(Human Resource Technology)」を導入する会社が増えているが、思ったような成果が出ないのに「先進的」という言葉に魅惑され、肝心の「成果」を忘れる会社は後を絶たない。
指先1本、スマホでいつでも転職できる時代だ。成長意欲の強い優秀な社員ほど、常に成長できる環境を探している。危機感を抱いた経営者は離職率を引き下げろと人事部門に指令を出し、慌てた担当者はコンサルなどを使って従業員満足度やエンゲージメントの向上にも取り組む。
「人的資本経営」(編集部注:人材が持つ能力を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値を向上させる経営のあり方)の重要性が叫ばれる昨今、経営者はこうした取り組みに満足げだが、人事担当者は効果を実感できないまま増え続ける仕事で「マルチタスク虫」(*)に取りつかれ、最悪の場合メンタルに不調をきたすようになる。
【*マルチタスク虫=過度な“顧客第一主義”が、業務の渋滞を引き起こすこと。シリーズ第1回記事《「アレもコレも最優先」でマルチタスクを要求する上司に現場が疲弊…“やってはいけない解決策”は人員を増やして対処すること 問題解決につなげる正解とは》参照】