日々、さまざまな事件が起きているが、実際に裁判を傍聴すると、裁判官の意外と人間くさい言葉に居合わせた傍聴人たちが、思わず心を揺さぶられたりすることもあるという。裁判の現場でいったい、どんな話が繰り広げられているのか?
裁判官が判決を言い渡した後、被告人に対して行いを改めるよう諭す言葉を「説諭」、正確には「訓戒」という。ここでは、傍聴人をも驚かせた説諭を2例、紹介しよう。
【事件データ1】
・静岡地裁 某陪席裁判官(1993年3月10日)……国の重要文化財である神社の拝殿に火をつけ、非現住建造物放火罪に問われた男に対しての発言。
『刑務所に入りたいなら、放火のような重大な犯罪じゃなくて、窃盗とかほかにも…』
刑務所に入れば、食事が支給され、雨風がしのげ、寝床も確保されることになる。
「刑務所に入りたいからと罪を犯すのは、珍しいことではありません。この被告は『腹が減っていて、捕まって食事をとりたかった』と言い訳をしていましたが、このような罪人に切実な動機があるわけではなく、犯罪の先にある3食寝床付きの生活を狙っているため、大ごとは起こさない。
ですが、この件は重要文化財に火をつけており、服役志願者のよくあるパターンから外れていたので、裁判官もこのような発言になったのでしょう」(司法ジャーナリストの長嶺超輝さん・以下同)
もちろん、こんな身勝手な動機は許しがたいが、家もない状況でお腹が空いて犯行に及んだ被告の状況を知り、思わず裁判官が犯罪を指南するような失言をしてしまったため、《そうも言いたくなる》と、直後にあわててその発言をフォローしたという。