ネット上での誹謗中傷やデマ投稿などで裁判沙汰になるケースが相次いでいるが、そうした中傷被害投稿をされた場合、大切なのは、「一刻も早く動くこと」だと強調するのは、ネット中傷被害に詳しいアークレスト法律事務所代表弁護士の野口明男さんだ。
「書き込んだ人を特定するための『発信者情報開示請求』を行うなら、すぐに弁護士に依頼してください。というのも、SNSへ投稿した場合、データの保存期間には期限があり、短いところだと約1週間で自動的に消えてしまうからです。また、それ以前に、投稿した本人が自主的に消してしまうケースもあります。そうなると、証拠がなくなり、訴えられなくなります」(野口さん・以下同)
特に、Twitter者など海外の企業は、開示請求をしてから、身元確定につながるIPアドレスなどを開示してもらうまで2~3か月かかるため、その間にデータが消えてしまうのだという。
ネットで誹謗中傷してくる相手は1人ではないケースが多いため、特にひどい内容を投稿した人や拡散力の高い人など数人に照準を絞るのが一般的だという。人数が増えるとその分、裁判にかかる時間や費用が余計にかかるからだ。投稿者を特定するには、いくつか注意点があるという。
「『名誉毀損を受けたため相手を特定して損害賠償請求をしたい』と主張して開示請求する場合、その投稿内容が誰について書かれているか第三者でもわかるものでなければなりません。例えば、『××会社の〇〇(フルネーム)は××会社の金を横領した』など、本人を特定する内容が、具体的に書かれている投稿を選ぶ必要があります」
開示請求が認められて投稿者が特定されたら、損害賠償請求を行うのが一般的な流れだ。しかし実際は、訴訟になる前に投稿相手が和解に応じるケースが多いという。
「『二度としない』などの誓約書を書かせたうえで示談金を支払ってもらい決着するケースがほとんどです。そこで決着がつかなければ訴訟になります」
投稿者の身元の特定までにかかる期間は半年~1年程度。費用は1人分の身元が特定するまでに数十万~100万円程度かかる。被害者の負担が大きいが、それでも、法的措置を取ることで、無自覚な誹謗中傷犯への抑止になる可能性は高い。「誰が投稿したのかわからない限り、今後会う人をすべて中傷犯ではないかと疑ってしまう」などの理由から、法的措置を取る人は少なくないという。