老後の生活設計を考えるうえで、重要な人間関係の整理。そのうえで、同じ家に暮らす「配偶者」との関係もあらためて見直すことが望ましい。
仕事を引退後、夫婦関係がうまくいかなくなるケースは数多くある。元機械メーカー社員の67歳男性はこう嘆く。
「完全にリタイアして2年弱になりますが、家に居場所がないと痛感しています。会社に行かなくていいのだからと、カルチャー教室で趣味の幅を広げて家内と一緒に楽しんだり、あちこち旅行に出かけたりするつもりでしたが、コロナ禍でそんな状況ではなかった。
自宅にいると“また食事の準備だわ……”と、朝に昼に晩に家内の大きなため息を聞くことになる。年金生活でゴルフに行くのも肩身が狭い。これが何十年も続くのかと考えるとゾッとします」
夫婦円満な暮らしを長く続けるには、現役時代の考え方や習慣のなかから「やめたほうがいいもの」を見定める必要がある。作家・書誌学者で『定年後の作法』の著書がある林望氏はこう語る。
「僕は1949年生まれですが、我々の世代では夫が会社で働き、妻は専業主婦かパートということが多かった。明確な分業体制があったわけです。今の若い世代はかなり意識が違うと思いますが、中高年世代にはまだ色濃く残っています。まずはそうした現役時代の分業意識を捨てることが大切になります」
会社組織では、上司と部下、先輩と後輩といった上下関係が多かった。
「そのなかで出世するかしないかといった意識を持っていたわけですが、リタイア後は発想の大転換が必要です。人間関係にヒエラルキーがあるという意識をやめるのです。
僕は定年後の生活は『コ』を恐れないことが重要だと考えています。『コ』は個人の『個』であり、孤独・孤立の『孤』でもあります。これはポツンと孤立するわけではなく、人間関係を整理したうえで、真に親しい人とだけ節度をもって付き合う“名誉ある孤立”のイメージです」(林氏)