長生きするほどお金が必要になり、年を取るほど元気がなくなっていくのは自然の摂理。「40年も年金を納めてきたのに」「若い頃はよく眠れたのに」と嘆いても仕方がない。では、どのように生きていくのが正解なのか。作家・橘玲氏にインタビューした。
かつての「1億総中流社会」では、一生懸命勉強してそれなりの学校や会社に入り、コツコツ定年まで勤め上げれば、余生は安泰だった。女性はサラリーマンと結婚し、専業主婦として子供を育てることが、当たり前の幸せとされた。
「そんな時代はとっくに終わりました。いまは普通に生きていたら、転落してしまう」
そう語るのは、作家の橘玲さん。『上級国民/下級国民』『無理ゲー社会』などの著作で、現代社会の“言ってはいけない”現実を描いた橘さんが話す。
「世界はとてつもなく豊かになり、誰もが自由に自分らしく生きられる『リベラル社会』になりました。いまや、年齢や性別による差別は許されません。その一方で、一人ひとりに求められる能力の水準が上がって、普通に生きている多くの人がそれをクリアできなくなったのです。
より高い学歴や資格、経験を持つ者だけが優遇される現代は、いわば『知能格差社会』。夢を叶えて自己実現できるのはほんの一握りの“上級国民”だけです。バリバリ働いて高収入を得る女性が増え、交際相手となる男性に求める水準も上がった。その結果、恋愛の自由市場から脱落する男性が増え、それが少子化や婚姻率の低下として表れています」(橘さん・以下すべて同)
ある種のステータスだった、出身校や勤め先といった“ブランド”にもあまり期待できない。SNSの登場で、個人の持つ経歴や能力、魅力が可視化されたからだ。
橘さんは、仕事の形態が会社から個人に移るに従って、これまでブランドに頼っていた人は転落していくと語る。古きよき時代に就職・結婚した世代や、リタイア世代にも時代の波が襲いかかるのだ。
「日本人の平均賃金は、ここ30年間上がっていません。今後も、人口減少による市場の縮小は続きますから、賃金の大幅な上昇は期待できません。また、年金制度はそもそも、55才前後で退職して65才前後で亡くなることを前提に設計されていて、人生100年時代となったいまは制度自体の持続性が問われています。給付額の引き下げや受給開始年齢の引き上げが避けられず、年金で悠々自適はもはや夢のまた夢です」