東京大学など全国の大学や研究機関で、「10年ルール」による研究者の「雇い止め」が波紋を広げている。2013年4月に「改正労働契約法」が施行され、有期雇用期間が10年を超えた研究者は無期雇用への転換を求められることになり、このルールの適用開始が今年4月だったため、3月末に大量の雇い止めが起きたのだ。だが、経営コンサルタントの大前研一氏は、「ある意味“自然淘汰”されたと言えるのではないか」と分析する。自身ももともとは研究者の道を歩んでいた大前氏が、今の日本の研究者のあるべき姿勢について提言する。
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もともと大学や研究機関は、教授や主任研究員を中心とした“徒弟制度”であり、歌舞伎や大相撲のような“一門意識”がある。下から見ると、強固な年功序列・トコロテン方式の「一本道」で、トップの教授や主任研究員が引退しない限り、その下にいる准教授、助教、助手、ヒラ研究員などは上に行けないのだ。“社畜”ならぬ“学畜”である。
そういう閉塞・硬直化した組織は根本的におかしいのだから、日本の研究者は発想を転換し、学生時代からどこに行っても勝負できるようになることを考えておかねばならないと思う。
実際、私の母校MIT(マサチューセッツ工科大学)の場合、修士課程修了者の80%は5年後、大学院で専攻した分野とは異なる領域で仕事をしている。研究者は問題を追究・解決する能力さえあれば、どんな領域でも活躍できるはずなのだ。
ところが、日本の研究者の大半は大学時代に選んだ極めて狭い領域に固執し、融通が利かない視野狭窄の人生を歩んでいる。彼らは若いうちからもっと世間に触れて起業や民間企業への就職を選択肢に入れ、閉塞・硬直化した組織に頼らなくても自立できる人生を目指すべきだと思う。
ただし、日本の研究者はどんどんレベルが下がっている。文科省の調査によれば、自然科学分野で2018~2020年の平均引用数が上位10%に入る「質の高い論文」が、日本は3780本で世界12位だった。首位の中国の4万6352本に12倍以上の差をつけられ、11位の韓国(3798本)にも抜かれた。
一方、シンガポールやドバイは海外から優秀な研究者を吸引している。アメリカはもともと世界中からトップクラスの研究者が集まっているし、インドやイスラエル、台湾は独自に高度な研究人材を育成している。