それらの国に共通しているのは研究者が「英語で仕事ができる」「高給がもらえる」ことだ。日本の大学や研究機関も英語を公用語にし、世界標準の給与体系にして研究者の半数以上を海外から呼び込まなければ、国際的な研究レベルに引き上げることはできないのだ。
個人的な話に戻ろう。研究者の道に見切りをつけた私は、日立製作所で原子炉を設計していたが、日本独自の原子炉を造ることが求められていない政府の原子力政策に幻滅し、わずか2年で日立を辞めて畑違いの経営コンサルティング会社マッキンゼーに転職した。
同社では本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を務め、世界中の経営者や政治家、学者たちと親交を結んだ。
そして、生活者主権の国づくりを目指して政策市民運動「平成維新の会」を立ち上げ、東京都知事選挙や参議院議員選挙に挑んで惨敗した。その後は起業家養成の「アタッカーズビジネススクール(ABS)」や政策提言ができる人材育成の「一新塾」などを創設した。
さらに、中国・大連でデータ入力会社、九州でネットスーパーを経営し、現在は1998年に設立した「ビジネス・ブレークスルー(BBT)」で経営指導と人材育成に注力している。
これまでに何度挫折したか、何回軌道修正したか、自分でもよくわからない。
だが、もし東工大に戻って教授になっていたら、これほど起伏に富んだ面白い経験はできなかっただろう。人生は山あり谷ありで、それを乗り越えていくからこそ面白いし、私は工学を学んだからこそ、新しい仕事や事業を始める際も、他人とは違う「創意工夫」を織り込めているのだと思う。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『世界の潮流2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。
※週刊ポスト2023年6月30日・7月7日号