なお、被害者は「事故に遭った自転車に乗りたくない」と言っていますが、そのような主観的理由により自転車が全損したと評価されることはありません。
次に買い替えが必要な場合であっても、新品の自転車を購入したり、代金額を丸々支払う義務があるとはいえません。被害者の自転車が買ったばかりだった場合は別として、購入後ある程度の期間使用していたとすれば事故当時の時価は購入時より減額しているはずで、中古自転車となって購入価格で売ることはできません。もし被害者が新品の自転車を賠償として入手すれば、損害以上の利益が出ることになってしまいます。全損の場合でも事故当時の自転車の時価が損害となります。自動車のように中古車市場がないので、金額の算定は困難ですが、裁判例では使用年数に合わせて購入額の一定割合で算定する例が多いようです。
被害者の言い分からはたいした破損とも思えません。自転車販売店に修理の可否を確認し、修理可能の場合は費用を見積もってもらい、その金額を基準に交渉するのがいいでしょう。
【プロフィール】
竹下正己/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2023年8月10日号