2020年に「第4の携帯キャリア」として参入した楽天の苦境が連日報じられている。8月10日に発表された楽天グループの2023年12月期の第2四半期決算は1399億円の赤字となったからだ。だが、楽天は本当に“経営危機”に瀕しているのか。楽天グループと三木谷浩史社長の内情に迫った新著『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』を上梓したジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。【前後編の前編。後編を読む】
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3メガが楽天モバイル潰しに
8月28日午後3時過ぎ、楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史はSNSの「X(旧ツイッター)」でこう呟いた。
〈楽天モバイル。昨日、契約者数が『500万回線』に到達致しました〉
様々なメディアで苦戦が報じられている楽天モバイルの加入者数が増勢に転じた。楽天モバイルは「3メガキャリア」と呼ばれるNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクに挑戦すべく、自前の通信回線を持つ「第4のキャリア」として2020年春にサービスを開始した。
サービス開始当初、「最初の1年間は無料」「月のデータ使用量1ギガ未満なら無料」など各種キャンペーンで一気に490万回線近くまで伸ばしたが、キャンペーンをやめた途端、解約が相次いだ。楽天モバイルが苦戦したもう一つの理由は、3メガが「楽天モバイル潰し」を狙った新プランを相次いで導入したからだ。
ドコモが「ahamo(アハモ)」、auが「povp(ポヴォ)」、ソフトバンクが「LINEMO(ラインモ)」といった新ブランド、新プランで応戦した。携帯電話の料金プランはただでさえ複雑で、一般のユーザーにはどこが安いのか分かりにくかったが、そこに新プランが加わったことで、分かりにくさが増した。一体どこが安いのか。
携帯の料金は月々に使うデータの量によって変わってくる。動画やゲームで大量のデータを使う人は「無制限プラン」を選ぶが、3メガの「無制限プラン」は、ドコモが7315円、auが7238円、ソフトバンクが7238円。3278円の楽天モバイルが圧倒的に安い。
「ユーチューブで動画を、通勤・通学の電車でドラマを見る」ような使い方だと「月20ギガまで」のプランが経済的だ。ドコモのアハモが2970円、auのポヴォが2700円、ソフトバンクのラインモが2728円。楽天モバイルが2178円なので、ここでも楽天モバイルが最安値である。
「LINEやメールが中心でたまにユーチューブを見るくらい」だと「月3ギガ」で収まる。ここではアハモが2970円、ポヴォとラインモが990円。楽天モバイルは1078円である。整理すると3ギガ以下ならポヴォ、ラインモ、楽天モバイルがほぼ横一線。それを超えるデータ量なら楽天モバイルが圧倒的に安い。スマホのデータ使用量は毎年、確実に上がっている。そう考えると多くの人が楽天モバイルに乗り換えそうだが、まだその現象は起こっていない。