香港市場に上場する恒大集団とその子会社(恒大物業集団、中国恒大新能源汽車)は9月28日、取引を一時停止すると発表した(ただし、恒大集団、恒大物業集団は10月3日に取引再開)。その理由について、恒大集団は同日大引け後「許家印会長は違法行為に係わった疑いがあり、関連当局から強制措置を受けた」と公表している。具体的に示されているわけではないが、被疑者として当局に身柄を拘束されたと見られる。
当局は許家印会長の罪状について明らかにしていないが、中国本土マスコミの多くがそれに関連する報道を出している。様々な犯罪に関与している可能性があり、事情は非常に複雑だとしている。ただ本質はむしろシンプルで“経営者の質に問題がある”ということなのではなかろうか。
傘下の恒大金融財富管理(深セン)有限公司が満期の金融商品について約束通りに支払いができなくなった件で許家印会長は2021年9月、説明会において「私は無一文になっても構わないが、投資家の皆様は無一文になってはならない」と発言している。
多くの物件について、資金繰りがつかずに工事が遅れ、約束通りに物件の引き渡しができなくなった件で許家印会長は2021年12月、内部会議において「恒大集団の従業員は誰一人、怠けてはならない」「恒大集団の各クラスの幹部は全職員を引っ張って、永遠に放棄しないといった精神を発揚し、さらに努力を続け、日夜奮戦しなければならない」と発言している。
一方で、同社、子会社による配当金に関する広告などを見ると、今年に入り、許家印会長は長年連れ添った妻である丁玉梅氏と離婚していたことがわかる。許家印氏、丁玉梅氏が株主となっているケイマン諸島にあるオフショア企業にプールしてあった900億元(1兆8000億円、1元=20円で計算)強の累積配当金が、国外にいる“元妻”の手元に渡ったとみられる。偽装離婚が疑われているのだが、これは容疑の一部に過ぎないようだ。
大株主であり、経営者でもある人物が複数の背任行為、違法行為を行っているのであれば、恒大集団の債務リストラに関して、好意的に協力しようとする債権者たちが出てくるはずがない。当局主導による破綻処理が今後、加速することになりそうだ。