中国の民営企業の“質の悪い部分”
この問題が与える中国経済への影響についてだが、まず考えられるのは、破綻により生じる債権者の負担が金融システム、経済システムに対して悪影響を与えるという点である。ただ、この点については、中国の金融機関は資本関係においても、人事、行政指導といった資本を超えた関係においても、実質的に国家の管理下にある。つまり、恒大集団の破綻が金融システムに影響しないように国家主導で処理されるということだ。
業界内の大手あるいは中堅民営企業の中に、同じような質の経営者がいないとは言い切れない。当局は今後もそうした業界の悪い部分を正そうとするだろう。経済への影響を考えて、見逃す部分とそうでない部分を線引きしたり、処理の速度を調整したりするだろうが、必ずしもそれがうまくいく保証はない。供給サイドの要因で、不動産業界の回復が遅れる可能性はあるかもしれない。
もっと大きな観点では、中国の資本主義、民営企業の“質の悪い部分”が気になる。改革開放政策を開始して以来すでに40年以上経つがこの間、共産主義、社会主義と矛盾する部分、“自分の利益を追求することだけを目的とする企業”や“そのためにはルールや法律を破っても構わないと考える経営者”が中国社会に深く入り込み、蔓延している。不動産のような大きな産業のトップ企業の経営者にまで上り詰めている者もいる。こうした資本主義、民営企業の“負の部分”を排除することについて誰も反対しないだろうが、それを性急に行うことによって、経済、社会の活力が奪われかねない。
もっとも日本でも、社会のルールや法律よりも自己の利益の最大化を優先しようとする経営者はいる。どの国でも、自由と規制管理のバランスをとるのは簡単ではない。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。