「世話をしない飼い主」に効果はなし
ただ、認知症リスクを40%低減するというのは、ざっくりと「犬を飼っている人」と「飼っていない人」を比較した結果で、なかには、飼っているといっても、家族に世話をすべて任せて、「カワイイ、カワイイ」と頭を撫でているだけの人もいる。そういう人でも認知症リスクが下がるのかというと、この論の流れからすると、やはり疑問が残る。
そこで、この研究では、犬との関わり方による健康効果の差を調べるために、犬の飼育に加えて「日常的な運動習慣」と「社会的孤立」を組み合わせた解析もしている。
その結果、犬を飼っていて運動習慣のある人は、認知症リスクが63%も低減していて、犬を飼っていて社会的に孤立のない人は59%も低減していた。犬の世話を通じた散歩や社会との繋がりにより、認知症リスクがおおよそ60%も低減していたというのだ。一方、飼ってはいても世話は人任せの人の場合、リスク低減効果はほとんど見られなかったという。犬は世話してナンボで、散歩に連れて行かないのなら、健康効果は得られないということだ。
しかし、この研究結果はそのまま受け止めていいものか。犬が好きで実際に飼おうとする人はもともとアクティブで、認知症になりくい人であるというだけで、実は因果関係が逆という可能性はないのだろうか。
「年齢や性別、家族構成、所得、心身機能といった犬の飼育者が持つ特徴を調べ、これらの影響を考慮した統計解析手法により、犬の飼育の有無による認知症発症リスクを比較しています。つまり、犬飼育者の背景要因が同じだった場合でも、犬の飼育者のリスクが低くなることを意味しています。
ただ、今回の研究では、犬を可愛がる気持ちや愛情の大きさを測ることができていないため、犬の飼育と認知症発症との間にあるメカニズムを解き明かすには、今後更なる研究が必要です」(谷口氏)
それにしても、おおよそ60%も認知症リスクが下がるというのは、劇的な効果と言っていいだろう。認知症の進行を約30%遅らせると謳う認知症治療薬が、先ごろ日本で承認されたが、犬を飼うほうが効果が高いのではないか。
「比較対象が異なるので、一概にどちらが効果が高いとは言えませんが、犬を飼う効果は非常に大きいということは言えます」(谷口氏)