現役時代、同じ時間、同じように懸命に働いても老後の暮らしには大差が生じる。その大きな要因は「年金」にほかならない。いったいどういうことなのか、具体例を紹介しながら、その対策を考えてみよう。【年金生活の天国と地獄・第2回。第1回から読む】
「106万円の壁」「130万円の壁」の壁超えという選択肢
現役時代、会社員や公務員として働いていた場合は厚生年金を受け取ることができるが、「自営業+専業主婦」は夫婦ともほぼ基礎年金しかもらえず金額も低い。さらに厳しい現実が待ち受けているのは、妻が自営業や個人事業主の夫に先立たれるケースだ。妻は遺族基礎年金を受給できるが、「18才未満の子」がいるとの条件がある。
一方、夫が会社員や公務員だった場合、先立たれた妻は子供の年齢にかかわらず、遺族厚生年金を受け取ることができるものの、もちろん夫が生きているときと比較すればその額は少なくなる。そのため夫に先立たれた後に生活が困窮する女性は少なくない。
そうならないためには、妻ができるだけ働き、自分の収入や年金を増やすことが手っ取り早い。
しかしそこに立ちはだかる“壁”を敬遠し、二の足を踏むケースがいま国会でも議論になっている。会社員や公務員の妻は、夫の扶養家族になるため社会保険料(年金、健康保険料など)を払わなくてもいいが、パートやアルバイトの収入が「106万円」を超え、一定の要件を満たすと夫の扶養を外れ、厚生年金の支給対象となり自分で社会保険料を納める必要が生じるのだ。これがいわゆる「106万円の壁」だ。同様にさらに対象範囲が広い「130万円の壁」がある。
厚生労働省は、「壁」を超えた妻の負担軽減のため、「106万円の壁」を超えた場合は「労働者1人あたり最大50万円の支援」、「130万円の壁」を超えた場合は「引き続き被扶養者認定が可能となる仕組み」などの対応策を今年10月から実施したが、保険料負担を嫌う妻は多い。だが年金博士として知られる社会保険労務士の北村庄吾さんは、あえての「壁超え」を推奨する。
「確かに社会保険料の負担が増えるデメリットはありますが、将来受給する年金額が増え、病気になった際は健康保険から傷病手当が出るメリットもあります。病気や離婚、増税や値上げによる経済的負担といった将来のリスクを考慮すると、働いて自分のお金を増やすことが賢明な選択肢になるはずです」(北村さん)