先祖代々の墓に入れる人は、その家の慣習や墓地の規約で決められるケースが多い。もし、親やきょうだいから、結婚を経て変わった「名字」を理由に代々の墓に入れないと言われた場合、名字を変更できるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
10年前の婚約時、向こうの籍に入ることになり、彼女の名字に。それが1年前に離婚。ただ、名字は変えませんでした。生命保険などの名義変更が面倒だったからです。でも、兄からは名字を戻さないと、代々の墓には入れないとの警告。となれば、少し無理してでも前の名字に戻したほうがよいのでしょうか。
【回答】
結婚で氏が変わった配偶者は、離婚で婚姻中の氏(婚氏)から、結婚前の氏に自動的に戻ります(復氏)。「名字を元妻のままにしていた」の意味が、事実上婚氏を使っているだけなら復氏しているので、元の名字を正式な姓として名乗ることに問題はありません。
ただし、離婚の日から3か月以内の届け出で、婚姻時の姓を継続できます。これを婚氏続称といい、この手続きで婚氏を名乗っていれば、復氏した氏の呼称を婚氏に変更したことになり、あなたの場合もそうだと仮定します。
そこで、その名乗りを変更するためには、たとえ婚姻前の名称でも、すでに復氏しているので離婚の時のように簡単にはいかず、家庭裁判所から氏の変更の許可を受ける必要があります。
そして、「氏」が個人を特定する上で果たしている法的社会的機能は重要であり、氏の名称によって生ずる「呼称秩序」の安定をはかる上でも必要とされ、たやすく変更は認められず、「やむを得ない事由」がある場合に限って、許可されることになります。