誰もが持っている「肖像権」。もしもニュース映像などに意図せず映り込んでしまった場合、それは肖像権の侵害になるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
街頭を映したニュース映像で、大勢の通行人の中に、娘がデートしている姿が映り込みました。社内恋愛を周りに公表していないため、万が一、会社の人が見ていたらと娘は心配しています。
テレビやYouTubeなどは、街中の様子を勝手に撮影して流しても問題ないのでしょうか。そこに映り込んだせいで不都合が生じた場合、肖像権の侵害になりませんか。教えてください。(東京都・58才・主婦)
【回答】
人はみだりに自己の容貌等を撮影、公表されない人格的利益(肖像権)を持っており、正当な理由なく容貌を撮影したり、その写真を公表すると、肖像権の侵害になります。被害者はその場合、侵害行為の差し止めを求めたり、精神的苦痛に対する慰謝料を請求することが可能です。
肖像権は、肖像を「みだりに利用されない」権利ですから、撮影されたり公表されたりすることに正当な理由がある場合のほか、撮影がやむを得ない場合は、侵害にはなりません。
例えば、警察が犯罪の証拠保全のために必要な範囲で撮影することや、防犯カメラで撮影することは正当な理由によるものとして許されます。
肖像権の侵害にならないケースはほかにもあります。
本人の社会的地位、撮影された活動内容、撮影場所、撮影目的、撮影態様、撮影の必要性等を総合して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上、受忍の限度を超えないと判断される場合です。人は社会生活の中で、他人と協調してがまんすべき範囲がある、ということがその理由です。
道路や公園等の公共の場で、つきまとっての撮影などでなく、普通の人なら特に負担に思わない方法で撮影される場合も同様です。そこで風景写真を撮ったときに背景として偶然写り込んだ人物がいても、肖像権の侵害にはなりませんし、報道写真でも公共の場であれば肖像権の侵害にはなりません。