鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第17回は「第三軌条方式」について。
パンタグラフがない電車
日本の電車の多くは、パンタグラフを使って外部から電気を取り込んで走っています。パンタグラフは、車体の屋根に取り付ける集電装置で、線路の中空に張られた架線(架空電車線の略)に接触します。
ところが日本の地下鉄の一部路線では、架線がない線路を、パンタグラフがない電車が走っています。おもな路線の例には、東京メトロの銀座線や丸ノ内線、Osaka Metroの御堂筋線をはじめとする5路線があります。
このような路線では、電車はどのようにして電気を外部から取り込んでいるのでしょうか。今回はその謎に迫ってみましょう。
パンタグラフの代わりをする集電靴
結論から言うと、これらの路線では、架線を使う「架線方式」ではなく、「第三軌条方式」と呼ばれる集電方式を採用しています(新交通システムを除く)。つまり、パンタグラフをつけた電車が走る路線とは、電気を取り込む方法が根本的に異なるのです。
「第三軌条方式」は、架線の代わりに第三軌条、パンタグラフの代わりに集電靴(しゅうでんか)を使う方式です。第三軌条とは、線路に敷かれた3本目のレールで、電車に電力を供給する役割をします。集電靴とは、第三軌条に接触して電気を取り込む集電装置で、電車の台車の側面に取り付けられています。
第三軌条と集電靴は、見えにくい場所にあります。日本の地下鉄では、線路に立ち入った人が感電するのを防ぐために第三軌条にカバーが設置されており、隠れています。
これらは、地下鉄の博物館に行くと、見ることができます。下の写真は、愛知県日進市にある「レトロでんしゃ館(名古屋市 市電・地下鉄保存館)」で撮影した地下鉄電車の集電靴です。赤く塗られており、手前に出っ張っているのが集電靴です。日本の地下鉄では、この下面が第三軌条と接触し、こすれながら電気を取り込みます。