驚くべき突破力と粘着性
2020年、楽天グループはASTに300億円を出資する。この瞬間から、アベラン氏の頭の中にあった構想が事業として動き始めた。
今年1月にはグーグルとAT&TがASTに総額250億円を出資した。16日の記者会見に出席したアベラン氏によると、世界40社の携帯電話会社が同社の衛星モバイル・サービスを利用する意向を示しているという。
三木谷氏はグーグルやAT&Tより早くASTの将来性を見抜き、巨額出資を決めた。楽天モバイルの心臓である完全仮想化ネットワークも世界初の試みだが、アミン氏にその構想を聞いた時、三木谷氏は「ロジックが通っている」と判断して採用した。日本やインドで実用化が始まった楽天メディカルのがんの光免疫療法「アルミノックス」も、開発者の小林久隆医師から理論を聞いて納得し、投資を決めた。
いずれも直感的な判断ではなく、その分野について猛勉強し、考え抜いた末の決断だ。最先端の知識を吸収した上で自分の頭で考え「いける」と思えば、前例や実績がなくても三木谷氏は前に進む。そもそも楽天グループの祖業であるインターネットショッピングの楽天市場がそうだった。
始めた時は誰もが「無謀」と笑うが、驚くべき突破力と粘着質でそれを実現させてしまうのが「最後の海賊」三木谷氏の真骨頂だ。今回、発表した2026年から時期が多少前後することはあるだろうが、衛星モバイルも必ず実現させるだろう。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの強大な壁に挑む携帯電話の参入にも多くの人が「何をいまさら」と否定的に見ていたが、契約数は600万件を超えて伸び続けている。決算発表で赤字幅の縮小が明らかになった2月15日、楽天グループ株はストップ高の高騰を見せた。モバイル参入で散々に叩かれた「最後の海賊」が、逆襲に転じようとしている。
取材・文/大西康之(ジャーナリスト)