一般国民は、中古物件を買うしかない
坪単価が500万円を超え、分譲価格が1億円になるようなマンションマーケットでは、世帯年収が500万円台(厚生労働省「令和4年 国民生活基礎調査の概況」によれば平均世帯年収545.7万円、中央値423万円)の一般国民の存在感は薄れるばかりです。
富裕層はブランデッドレジデンスに住み、ホテルコンドミニアムでスキーやマリンレジャーを楽しみ、温泉に浸かって寛ぐなか、一般国民はどんなにローンを組んだところで、新築マンションを提供するデベロッパーから相手にされていないことは明白です。
この状態で一般国民が向かうのは、中古マンションのマーケットということになります。実際、中古マンションは近時、成約価格が急上昇しています。東日本不動産流通機構の調べによれば、2022年における首都圏・中古マンションの成約件数は3万5429戸、平均成約価格は4276万円。2011年と比べ、成約件数で22.7%増加、平均成約価格で69.0%上昇しています。
同期間における中古戸建て住宅の成約件数は27.2%増、平均成約価格は26.5%増ですから、いかに中古マンションの価格が上昇したかがわかります。
いっぽう、2023年における首都圏・新築マンションの発売戸数は2万6886戸、平均価格8101万円でした(不動産経済研究所)。2011年比で戸数は39.6%減少、価格で77%上昇です。つまり供給戸数が減って価格が高くなり、その結果としてあぶれた顧客が中古マーケットに流れ、価格が急騰したことが見て取れます。
このように記すと、何やらデベロッパーが意地悪をして一般国民向けのマンションの供給をやめてしまったかのように映りますが、値上がりが続く土地価格と暴騰する建設費のなか、一般国民向けのマンションを企画しにくくなっているのが実情です。
彼らには、郊外や駅から遠い、割安な土地を仕入れてマンションを造っても、建設費が高額マンションとそれほど変わらないため、販売価格が高くなり、一般国民から見向きもされないことがわかっているのです。
こうした事態に、悲鳴を上げているのがマンション専業のデベロッパーです。彼らは大手ほどの資金力がありません。大手デベロッパーなら賃貸オフィスや商業施設、ホテル、物流施設など多分野で事業展開をしているので、マンション事業が不調でも他の事業で収益を確保できます。
しかし、マンション専業デベロッパーは毎年、土地を仕入れて、建物を建設し、分譲して利益を得なければ、社員を養うことができません。もちろん、彼らも都心・好立地の土地を押さえられれば、超高額マンションを開発するチャンスがあります。しかし都心・好立地の出物は少なく、競合も激しくなります。さらに、彼らは富裕層や投資家が好むマンション仕様に詳しいわけではなく、また富裕層につながる人脈や販売網を整えている業者も稀です。ましてや、海外進出して分譲するノウハウも体力もありません。
こうして、結果的に、マンションマーケットは大手デベロッパーによる寡占化が進んでいきます。20年前には毎年8万~9万戸の新築マンションの供給があった首都圏のマーケットは約3分の1に縮小し、その間にデベロッパーの数は4分の1になったと言われています。これは大相撲にたとえれば、土俵が3分の1になり、横綱から前頭14枚目までいた幕内力士が、小結以上の三役だけになったようなものです。
結局、新築マンションは贅沢品として富裕層や投資家が買い求め、一般国民は中古マンションを買う構図が当分続くことになるでしょう。