自由に調査に出かけられないことは「研究者として不利」
また、「赤坂御用地」を舞台に研究することも「特権」といえるのだろうか。確かに一般人は赤坂御所に自由に出入りできない。しかし、悠仁さまはもっと「自由に出入りできない場所」が多いではないか。
昆虫の研究の世界には、アマチュア研究者も多く存在し、プロの研究者とも共同で調査研究をしている。そんな彼らに共通するのは、日常的に、山や森などに行って、昆虫を追い求めたいという思いだ。彼らの「山や森に行って虫を探したい」という欲求がどんなに強いか。SNSでも、昆虫に関する情報が頻繁に交換されており、その思いの強さを窺うことができる。
しかし、悠仁さまは「○○山に○○トンボがいた」という情報を見つけても、週末にリュックサックを背負って気軽に出かけることはできない。夏休みに青春18きっぷを使って、SNSを通して知り合った仲間と遠くの地方の山に行き、トンボを求めにいくこともできない。本来なら赤坂御用地の研究も、他の地域のトンボの生態を悠仁さまが調査し、比較した方がテーマに広がりや深みが出るだろう。
しかし、悠仁さまはそのための研究調査が自由にできない立場にある。昆虫研究者として大きなハンデがあるといえよう。「特別待遇」というよりも、研究者として不利な立場でありながら、できる範囲で努力されていて、ひたむきな研究者に見える。
だいたい、一般人が入れない場所は赤坂御所以外にもたくさんある。地方の山や森の私有地などもそうだ。そういった私有地にも珍しい昆虫が多く棲息している場所があり、研究者たちはあの手この手で許可をとってそこで調査をしようとする。そういった私有地に地元の高校生が親のコネで許可をもらって調査をし、そのデータを元にレポートを書き、大学推薦入試に利用したとしよう。それは「特権」と強く批判されるほどのことなのだろうか。
今回は進学先が話題になっている悠仁さまの「トンボ論文」への批判を検証した。推薦入試を取材している記者からすると、特権という批判は少し的が外れていると思えるのだ。次回は東大の学校推薦型選抜について言及していこう。悠仁さまが一般選抜ではなく推薦で東大へ進学されることへの反発もあるように感じるが、東大の推薦入試自体は相当の難関なのだ。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。