日本株が乱高下するなか、投資家の間では国内時価総額トップの「トヨタ」を売って、「日立」を買う「トヨタ売り、日立買い」の動きが取り沙汰される。それほどに今、日立の経営は“鉄壁”と見られているのだ。
かつて“日の丸家電”の代表格だった日立製作所は、従来のイメージとは異なるグローバルな「高収益企業」に変貌を遂げた。新しい日立の実像を追って、ジャーナリスト・大西康之氏がライバル企業との差に迫る。
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日立製作所が4月26日に発表した2024年3月期の連結決算は、売上高が9兆7287億円、営業損益が7558億円の黒字、最終損益も6267億円の黒字だった。
一方、日立と並ぶ“総合電機の雄”とされた東芝の同期連結決算は売上高が3兆2900億円、営業損益は1484億円の黒字だが、最終損益は半導体の持分法適用会社キオクシアの業績不振が響き748億円の赤字だ。
株式市場による企業価値の評価である株式時価総額は日立が国内5位の16兆470億円(2024年8月23日時点)。周知の通り東芝は2023年12月に上場を廃止しているが、日本産業パートナーズ(JIP)など7社は上場廃止に当たり、1株4620円、総額2兆円で東芝株を買い付けた。これが東芝の企業価値ということになる。8倍強の差がついているわけだ。
日立と東芝の共通点は、総合電機というだけでなく、かつて同じ二つの企業グループに属していたことだ。一つは旧電電公社、今のNTT向けに電話交換機や伝送装置を作る「電電ファミリー」、もう一つは東京電力を筆頭とする電力10社向けにガスタービンや送電網、原子炉を作る「電力ファミリー」である。
電力自由化、通信自由化が実施される1980年代半ばまで国内の電力、通信市場を独占してきた電力10社と電電公社は、それぞれが毎年5兆円近い設備投資を実施していた。財源はあまねく国民から徴収する電気料金と電話料金である。
ファミリー企業は電力会社と電電公社の下請けとして、この10兆円を山分けしてきた。東電と電電公社が求める仕様で機器を作れば、「原価プラスアルファ」で買い上げてくれる甘いビジネスだ。
日立と東芝はこの莫大で安定した利益を元に、半導体、コンピューター、テレビ、液晶パネル、スマートフォンなどあらゆる事業に手を伸ばした。しかし、“副業感覚”で進出したこれらの事業では、米国、韓国、台湾などに専業メーカーが台頭。両社はグローバル市場で負け続けたのである。